今回のキーマンに聞くは、冷食大手のニチロの開発・営業・物流に携わり、元専務として経営陣にまで上り詰めた松村直幹氏。その後はアクリフーズ会長を経て、現在はティーエルロジコムの顧問として活躍を続けた、荷主からの物流改革の実践者です。自らは「物流の専門家ではない」と述べながらも、荷主の立場から、ニチロ、アクリルフーズの物流コスト40%削減に成功。物流業者を叩いてコスト削減を図ろうとする荷主・卸業者が目立つ中、「他者に責任を押し付け、自分からは何もせず甘えているのを改革とはいえない」「成功要因は自らがいかに汗をかき、努力するかにかかっている」を心情にまい進しています。「物流改革は誰でもできる」と明言する、松村直幹氏に、物流改革の提言を行ってもらいました。
―現在、物流改革とは、名ばかりのコスト叩きが横行し、燃料費高騰下で物流業者は大変、厳しい立場にたたされています。倒産件数も大幅に増えている状況です。真の物流改革とは何かが問われるわけですが、荷主の立場として長らく、物流改革の旗手として手腕を発揮された松村さんは、物流改革はどうあるべきだと考えていますか?
まず訴えたいのは、改革とは他人がやってくれることではないということです。自らが知恵を出し、額に汗して努力し、そこから得られるものです。
大方の企業は、そこを勘違いして、高い所から業者を呼び寄せて、コストダウンを要求する。他者に苦労を強いるわけです。ラクではあるでしょうが、そこには何ら工夫がみられないし、自分の無為無策をさらけ出しているようなものです。
コストダウンによって、少しばかり得られるメリットはたとえあったにしてもそれは微々たるもので、自分自身の創意工夫がないために、改革も改善もできる余地など、ありません。
いまから12年前、ニチロ(当時は冷食販売部長)にて物流改革に着手。そこでは『チャレンジ40運動』(在庫・ロス・人件費を含めた物流コスト40%削減)を行い、5年後には達成することに成功しましたが、このとき支払物流費は一銭も削りませんでした。
次に担当したアクリルフーズ(旧・雪印冷凍食品)でも料金値下げの交渉はしませんでした。
自らが苦労し、責任を取ることで、はじめて成功できたと考えていえます。
あと改革を推進させるには、物流部門だけの取組みではダメです。サプライチェーンマネジメントの本質を問えば、生産のあり方、販売のあり方を含めた形で見直し、トータルで物流コストを削減していかなければなりません。
そうした状況のなか、物流部長に改革をすべて任せ、部門間の調整などできるでしょうか? 営業がダメだから、年だからという理由だけで物流部長に任せ、いざとなるとコストダウンだ、改革だ、と責任を押し付けてしまう。荷主と物流業者との関係がそのまま、経営陣と物流部に入れ替わった形となります。
やはり経営陣が自ら改革に携わり、トップダウン方式で実践しなければなりません。
―ニチロの物流改革について詳しく説明してください。
当時の販売部長(常務)の号令でスタートしたのですが、利益を出すためにどうするかについて、頭を悩ましました。
その結果、『売上は追うな、利益を追え』を合言葉に、『チャレンジ40運動』に取組みましたが、常務の後ろ盾があるとはいえ、当初は不安でしたね。
毎週月曜日には常務が課長以上を召集し朝8時から早朝会議を実施。『アイテムを減らせ』『物流拠点を集約せよ』『イレギュラー配送をなくせ』と生産・販売など、各部門に問題点をあきらかにしているから、軋轢はあちこちで起こりました。最初の1年間は思うように効果がでませんでしたが、今度は受発注システムを再整備した上で、そこで得られるデータを駆使し、理屈で攻めることにしたわけです。
たとえば在庫表では、全工場、全支社拠点、海外工場、協力工場、通関予定洋上品・原料・包装資材のすべてがデイリー単位で、一覧表で打ち出されます。在庫だけでなく、ロス金額、赤帽や無駄な航空便の使用状況まであきらかにし、誰の不始末でなったかまでわかるわけですから、言い逃れできません。
その結果、2年目から効果がではじめ、5年後には次のような結果がでました。
▼加工品部門在庫高=開始前130億円、5年後75億円(削減率42%)
▼アイテム数=開始前3600、5年後2000(削減率43%)
▼物流コスト=開始前75億円、5年後45億円(削減率40%)
▼物流部門人員=開始前120名、5年後70名(削減率43%)
運動に際しては、コスト削減効果が成績に反映するセールス別損益管理制度を実施。在庫やロス減が自分の利益率に直接結びつくようにしたことも大きな成功要因につながりました。
―2003年にはニチロから子会社のアクリフーズ(旧・雪印冷凍食品)の会長に就任。こちらも改革を成功させましたね。
就任する前までは、アクリフーズは、欠品を出さないことだけに執着しすぎ、莫大な過剰在庫を抱え、赤字を出し続けていました。販売予測を行っていたとしても、欠品を恐れる余り過剰在庫を抱えていました。
就任当初は『欠品がでて倒産した企業はないが、逆に過剰在庫で倒産した企業はいくらでもある』という言葉を繰り返し伝え、ニチロ同様40%運動のもと、過剰在庫を徹底的に排除しました。
要は売れた商品だけを生産する仕組みを構築したわけです。販売予測精度の向上には努めますが、必ず、予測は狂う場合があります。その狂ったときに困らないように対処した仕組みづくりに尽力したわけです。
さらにもう1つロジスティクス部門には10人もの部員がいて意思決定能力に欠けていたのですが、ロジスティクス部を廃止し、物流課を新設し、3名ものメンバーにすることで、迅速な意志決定体制を構築しました。
その結果、就任前の2002年には15億円の赤字だった経常利益が翌年にはプラス5億、さらに04年にはプラス11億、05年にはプラス13億に。チャレンジ40の目標もたった2年で達成することができました。
―松村さんのおっしゃっていることは、まさにそのとおりで理にかなっているわけですが、実際に実現させるとなると難しい側面がありますよね。
いえ、物流改革は誰にでもできることなのです。
いかに軋轢を恐れず、労苦を恐れずに実践できるかにかかっています。
消費者起点の時代、『売れないものを売ってこそ営業マンだ』という形で、無理をして、過大な在庫を抱えているようでは、ダーウィンの法則とおり、淘汰されても仕方ありません。
いまの営業マンはクレーム処理の対応とともに、卸や小売の人たちと一緒になって、消費者が求めることを機敏に嗅ぎ取り、買ってもらえる商品作りに貢献していく。営業の役割が変化したことで、すべての部門の役割が変化します。
―いままでは荷主側からの物流改革を成功させるためには、という話でしたが、最後に物流業者としての物流改革を成功させるためのヒントを教えてください。
いま燃料費高騰が起こる一方、過当競争のなか、荷主との関係のもと、運賃転嫁はなかなか認められず、またコスト削減要求も依然みられています。
そのなかでどうしていくのか。
荷主側の対応と違い、軋轢を起こしてしまえば、業務から外されるという怖さがあるのも事実ですが、あまりに卑屈になるのもどうかと思います。
物流業者としてのプライドを持ち、荷主を説得できるだけのデータを揃えたり、逆に荷主の経営改善に役立てる提案型営業をできるかにかかっています。
ここ数年、ティーエルロジコムという実物流業者に所属し、実際に達成していくためには、難しい諸事情があることは、十分認識していますが、手をこまねいているだけではジリ貧となるだけ。きちんとした対応を地道に図っていくべきではないでしょうか。
(制作執筆協力・月刊ロジスティクスIT)
▼ティーエルロジコムHP▼
http://www.tl-logicom.co.jp/


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