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変わる賃料相場という概念 - 149 

賃貸物件を借りる際、物件探しの最も大きな基準になるのが賃料だ。まず予算があって、その範囲内でもっとも条件の良い物件を探すというのが一般的な物件探しの流れ。築年数や立地、建物のスペックや使い勝手なども、結局のところは限られた予算内でどれだけ良い物件に入居できるか、その基本条件を補完する細則のようなものに過ぎない。当然、エリア別、築年数別、スペック別の賃料相場があれば物件えらびの手助けになるわけで、今でもこれを参考に物件探しを始める場合が多い。どんなに良い物件であっても賃料が払えないのであればそこに入居することはできないのだから、一見これは当たり前のように思える。だが昨今、とくにオフィスや店舗などの事業用物件についていえば、賃料をコストではなく投資であるととらえる向きが一般的になりつつある。その観点に立てば、相場という概念を根本的に考え直さざるをえなくなる場面がでてくるのである。

中小企業庁の調査では、売り上げに対する地代家賃の割合は平均0.5~6.6%ほど。業種や規模によって異なるためかなり差があるが、自社の業種と規模を考慮すればある程度の目安にはなる。しかし前述のとおり賃料を投資と位置づける企業が増えれば、このバランスにとらわれない物件を借りる場面もどんどん増えてくるだろう。具体的にいえば「このくらいの売り上げが見込めるからこのくらいの物件を借りればいい」から「このくらいの売り上げをだしたいからこのくらいの物件を借りよう」という考え方への転換である。さらにいえば、昨今オフィスをはじめとする職場はメディアとしての機能も持ちつつある。先進的な機能を持つワークスペースを構築することで生産性を上げ、それを発信することによってさらに企業の価値を高めようという概念だ。

こうした企業が物件に求めるのは費用対効果と発展性であって、求めているのは自社のビジネススキームと理念を最大限の効果を持って実現できる物件である。こうした企業にとっては、どのエリアか、どのくらいの広さか、どのくらいの築年数かという従来の基準とそれにもとづく賃料相場はさほど重要ではない。それよりも重要なのは、想定していたビジネスをそこで実施した場合の費用対効果である。であれば、このエリアでなくてはならない、このくらいの広さでなければならない、このくらいのスペックでなければならないというような枠は存在する意義を失い、ビジネスが成功しそうな物件か否かが基準になっているのである。要するに、このエリアの賃料相場がいくらか、という情報にさほど大きな意味はないのである。

物件を貸す側としては、この概念に合わせた情報提供が必要になってくる。物件を探す企業が行おうとしているビジネスの内容を把握し、所有する物件で実施した場合の効果を詳細なデータとともに数字で示すことができれば、不動産賃貸市場も大きく変わってくると思うのだが。

(久保純一)2016.06.20