物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
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それでも倉庫を買いますか? - 162 

倉庫や物流施設に、投資家の注目が集まりつつあるという。投資を勧めるサイトは盛況で、書籍も売れているようだ。どこに投資の妙味があるのか、あらためて考えてみたい。まずは投資のメリットをいくつか見てみよう。

第一のメリットは安定した利回り。これは変動の少ない取得価額と賃料によってもたらされるものだ。特筆すべきは賃料の堅牢性で、賃貸住宅やオフィスビルなどに比べると築年数の経過による賃料下落が少ないのが特徴的。例えば一般的な集合住宅の賃料は、築25年を経過すると新築時の8~7割まで下がる。倉庫の賃料は市場動向もゆるやかで、築年数による下落も数パーセントといわれている。取得価額も市場の狭小さもあってさほどの変動は見られず、もっとも安定している投資物件のひとつといっていい。利回りの基準は5~6%ほどとされており、これは住宅やオフィスビルなどに比べると若干低い。しかしその安定性は、その差を補うに十分に足るといっていい。

次がランニングコストの低さ。これは建物の機能にもよるが、共用部のないシングルテナントであれば設備の保守・点検以外のコストはほぼかからない。設備機器も住宅やオフィスビルに比べ少なく、収入に占める維持費の割合も低い。テナントの自主管理なら、ランニングコストをゼロにすることも不可能ではないのだ。

もうひとつが、立地と用途の自由度。一般的な収益物件といえば、「どこに建つどんな用途の建物か」という大前提があって、それを基準にリーシングや運用手法について検討していく流れになる。だが倉庫・物流施設においては、立地も建物用途もさほど大きなネックにはならないのだ。そもそも倉庫は駅前一等地や人気の住宅地とはかけ離れた土地(取得価額の低廉さの理由のひとつでもある)に建つ場合が多い。高速道路・幹線道路からのアクセスや接道といった倉庫ならではの要素もあるが、中規模以下の一般的な倉庫であれば立地に束縛されることは少ない。他の不動産のように、駅前や人気の住宅地ではないという理由でリーシングに苦労することはないのである。また建物の自由度が高いのも特徴で、建築基準法や用途地域などの条件さえ許せばどんな用途に改装することもできる。倉庫を取得したからといって、倉庫として貸し出さなければならないわけではないのだ。

さてここまでメリットばかり挙げてきたが、もちろんメリットばかりではない。倉庫・物流施設にもデメリットや懸念点はある。その最大のものが、空室の長期化を招きやすい点だ。

シングルテナントの中規模倉庫や物流施設は基本的に“一点もの”。競合する物件が少ない上に、賃借希望者の条件は「指名買い」に近いほどシビアだ。例を挙げれば、荷物を受けだすエリアから遠すぎては効率が悪いし、近すぎても意味がない。さらに出入りするトラックのサイズや施設内の導線、バースへの接車、庫内の広さや天井高、床荷重に柱間。庫内作業が多い物流施設であれば従業員用の施設や通勤利便性、新規従業員雇用が可能か否かといった点も課題になってくる。要素はむしろ他の不動産カテゴリーよりも多い。賃借希望者の希望を全て満たす物件との出会いは、僥倖といっていいほどかもしれない。だから賃貸が決まればその入居期間は長期にわたることが多いのだが、これは新たな入居者を探すのが容易ではないということにもつながる。利用者は倉庫や物流施設をコストセンターとして捉えていることが多く、オフィスビルや店舗物件のような「うちの物件に入りませんか」という動的なリーシングも成り立ちにくい。結果として、一度空いてしまった倉庫はそう簡単には埋まらないのだ。

さらに昨今、中小倉庫のテナントは相次いで完成した大規模高機能型物流施設に吸い上げられている。国内の物流総量も件数ベースでは増加しているものの、重量ベースでは減少しつつある。製造業・販売業ともここ数年来新たな物流システムの構築をすすめており、既存の機能しか持たない倉庫が対応できるか否かも不透明だ。オリンピック後の経済状況や一部で囁かれる不動産賃料崩壊などの懸念に対しても、他の不動産と同様の影響を受ける可能性がある。そもそも倉庫や物流施設をより使いやすい物件にするためには、不動産に加え物流の知識とノウハウが必要なのだ。他の不動産カテゴリーに比べ、ハードルは低くない。それでも倉庫を買いますか?

それでも倉庫に投資したい! むしろそういう投資家の出現を待ち望む次第です。

(久保純一)2016.11.05