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なぜ働き方改革がすすむとオフィスが増えるのか 

オフィスビルの開発を手掛ける大手不動産デベロッパー各社が、働き方改革への対応をすすめている。

シェアオフィス、コワーキング、ノマドワーク、テレワークや、昨今でいうリモートワークという概念がひろまりはじめたのはリーマンショック以降だろうか。IT機器の発達によって「どこでも働ける」環境が整うと、企業側も業務の効率化やコスト削減につながるとしてこうした働き方を前向きに捉え、推進する方向性を示した。こうした働き方を率先して進める企業の姿は人々の目に新鮮に映り、ひとつのトレンドともなった。企業側としては、その姿勢のアピールや求人などに活かす思惑ももちろんあっただろう。

一方、不動産業界は危機感を募らせていた。こうした働き方では、セクションごとに規則正しくデスクが並ぶ従来型オフィスは不要である。従来型オフィスはやがて淘汰されるものという認識がひろがり、いずれ多くの企業がオフィスを畳むのではないかという危機感がひろまった。実際、オフィス家具メーカーやオフィス機器メーカーなどはこうした働き方を最適化させるアイテムをリリースしはじめ、従来型オフィスをこうした働き方に対応させるためのツールも模索されはじめた。在席していない、外出中の従業員の席を省きコストカットにつなげるという効果を狙ってフリーアドレスデスクが浸透したのもこの時期で、当時の状況を振り返れば、従来型オフィスの淘汰とそれにともなうオフィス床の縮小という説はかなり現実味を帯びていたといっていい。

しかし実際にこうした働き方を取り入れてみると、今度はオフィスのもつ価値があらためて論じられるようになる。資料作成や単純な入力作業などは一人でも、むしろ一人の方がはかどるだろう。しかしブレインストーミングやアイデア出しのためのディスカッション、あるいはプロトタイプの製作などといった創造的な業務は、スタッフ同士が実際に顔を突き合わせて協業した方が効率がいい。オフィスには、単なる業務の場だけではなく創造する場としての役割がある。そしてその場としての価値は、代替できるものではない。「どこでも働ける」環境が整うことで、オフィスの重要性が再認識されたのである。フリーアドレスデスクの目的も、これまでのような「効率化 = コスト削減」から、従業員同士のコミュニケーション促進や業務によって働く場を使い分けるためのものへと変化していった。オフィスにかかる費用の概念がコストから投資へと転換されたのもこうした流れの一環と見ていい。

そして現在、さまざまな働き方を認める、いわゆる「働き方改革」が進められようとしている。就業時間・就業場所の自由化や副業の容認、子連れ出社などが実現するとされているが、その主眼は少子高齢化による生産年齢人口の減少を、個人生産性を向上させて補うことにある。

現在、大手のオフィスビルデベロッパーは、複数の企業が使えるサテライトオフィスや子連れ可能ワークスペースなどの整備をすすめている。働き方改革がすすみ就業場所が自由化されれば、今日はどこで働くか、明日の業務はどこですすめるかなど、目的や状況に応じその都度最適な働く場を選べるようになる。オフィスビルデベロッパーの動きはそれに対応させるためだが、とはいえ従来型のオフィスに出社する頻度は、やはり減るだろう。そのぶん従来のオフィスには、従業員同士が協業して創造性を高める場という役割の、さらなる強化が求められている。

デベロッパーには、目的に応じたさまざまなタイプの「働く場」が必要になってくるという読みがある。一人が仕事のために使う場は、かえって増えるという計算だ。企業の拠点としてのオフィスも減少する場合があるだろうし、これだけで減少するオフィスニーズを吸収しきれるわけではないだろう。だがこれまでオフィス立地として認識されていなかったエリアや物件のオフィス化など、新たなニーズを生む可能性もある。いずれにせよ、一人あたりが実際に使うことになる「働く場」は、自由な働き方が浸透していけば増えていく可能性が大きいのである。

そう考えると、一人あたりの生産性を高めるためには「働く場」の面積をそのぶん拡げなければならないという理論も成り立つかもしれない。それでも結局、「働く場」における1坪あたりの生産性って決まっている気がする。であれば、一人あたりの働く場は、目いっぱい広くしてもらいたいものである。

 

久保純一 2018.6.5