物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
最新ニュース・情報を発信しています。

  • メール会員情報変更
  • メールマガジンバックナンバー
  • ニュースメール配信登録

延 嘉隆の物流砲弾<6> “現場で働く人”が採用できない理由 

今回は、昨今の物流業界のおける最大の課題、“現場で働く人”が採れないという点に、独自の視点で、ズバッと切り込んでみたい。

近年、物流施設を開発する際、広大な土地があることより、そこで働く人が採用出来るかを重要視する向きもある。「物流不動産NEWS」での連載に鑑み、ここでは倉庫(物流センター)で働く人にフォーカス(ドライバー採用についてはここでは論じない)。また、現場で働く人の雇用形態が「パート・アルバイト・派遣社員」に関わらず、その文言を「現場作業者」と統一する。

予め断るが、“人が採れない”といっても、相対的に求人が少ない地方、あるいは、地方に根付いた中小の現場では、そこまで問題では無い場合がある。ゆえに、地方でご覧の方にはピンとこない連載になるかもしれないが、その点をお許し頂きたい。

■どうやったら人が採れるか?

物流企業であれ、自家物流であれ、“現場作業者が採れない”という課題と向き合う時、ほぼ100%の人が、「どうやったら人が採れるか?」ということを考える。人が採れないのだから当たり前の話ではあるのだが、「考えるべきは本当にそこなのか?」という点を指摘したい。

採用ノウハウこそが大事だと思われる方は、その手のノウハウの類を得意とする専門家は結構いる。ゆえに、「物流現場 採用 セミナー」など検索を駆使して、セミナーを聴くなり、相談するなりして解決して欲しい。求人広告の出し方、求人サイトの使い方、ひいては、掲載する写真や、キャッチーなワーディングに至るまで、懇切丁寧に手ほどきしてくれ専門家もいる。なかには、人材会社や求人媒体などが代行してくれる場合もあるので、是非、活用して欲しい。筆者も、一通りのことは解るが、特に秀でたノウハウがあるワケでも無いので、この点の説明は第三者に譲りたい。

■なぜ、いつも、人が必要になるのか?に目を向けてみる

さて、ここからが本題。

実態はともかく、「景気がいい」(少なくとも統計数値上は悪くない)との一言で、人が採れない理由が真実味を増す。事実、5年間、現場作業者の賃金単価は上がり続けるなど、雇用のバロメーターとなる数値は軒並み上昇傾向にある。それゆえに、どこの現場においても「人が足りない」「人が採れない」と呪文のように繰り返され、他社よりもどう有利に採用するか?ばかりに関心が集まっているのが現状だ。

しかし、本当にそれだけが理由なのだろうか?

筆者はそうは思わない。なぜならば、過去10年、案件ベースで約1000件に及ぶ物流現場を行脚するなかで、密かに、聞き続けてきた“とある数値”に着目しているからだ。

その数値とは、現場作業者の“定着率”(あるいは、現場作業者の平均勤続年数)。

物流現場ごとの数値の出し方が異なるため、必ずしも、定量的なものではないが、1都3県に限っていえば、定着率は概ね、40~60%の間が平均的。つまり、毎年、現場スタッフの約半数が入れ替わっているのが、物流現場の実相ではないかと考えている。首都圏に限って言えば、定着率が60~80%あれば良い方、90%近くいけばかなり高いと言える(ここが、地方との最大の違いと言える。地方には、定着率が高い会社が意外とある)。

当たり前の話なので詳細説明を省くが、定着率が高い会社と低い会社、そのいずれが「人が採り易いか」、「人を採るのが大変か」――、一目瞭然である。同時に、“言わずもがな”、熟練の現場作業者と新人の現場作業者とでは、その生産性は格段に異なる。筆者がとある物流現場で計測したケースでは、作業プロセスによって違いは出るが、作業生産性で150%、(派遣会社はマージンが乗る分、人件費は高くなるので、その価格差を加味し計算すると)支払い賃金あたりに直すと200%近い違いが出ることもある。そして、その違いは、自ずとコストに跳ね返り、膨大なコストの差、即ち、生産性の差となる。

労働や雇用、あるいは、今、流行りの“働きかた”の専門家などと話すと、必ず、最後は、“定着率”という言葉に行き着く。それにも関わらず、物流業界で“人が採れない”と話す時、一切、話題に上がらないのがこの“定着率”なのだ。

最近、遍く物流マンは、“定着率”という不都合な真実を、わざと見ていないのではないかと思う時すらある。

■定着率は、現場作業者から見た「企業」と「社員」の通信簿

結論から書けば、「自社の現場作業者の定着率は、現場作業者から見た、企業と社員への“通信簿”」に他ならない。つまり、定着率は悪い現場は、現場作業者から“イエローカード”、アベレージの数値を切っている現場は、“レッドカード”を突きつけられていると自戒した方がいい。

端的にいえば、“人が集まらない”のは、「自分たち(企業や社員)に原因がある」と考えるか否か、この発想の起点の有無で、課題点も、その対応策も180度変わってくるのではないだろうか。“定着率”の低さは、企業や社員の人を使う者としてのレベルの低さ、即ち、マネジメント力の無さと考えることは、労働集約産業である物流業界において、至極当然のことだ。

物流現場は、データ取得が容易な物流KPIは山のようにある。しかし、そこで働く人に関するKPIを定点観測している会社はまず無い。“定着率”はその一つの数値に過ぎないが、現場で働く“人”を起点に考えるKPIの導入、定点観測の重要性を提唱したい。

■「通勤距離」と「生産性」の相関関係

予め断るが、この点は、現在検証中である。ゆえに、あくまで、定性的な「仮説」である前提として受けとめて欲しい。無論、概ね、正しいのではないか・・・と考えており、確証に至りつつあるが、仮説の正当性を主張出来るエビデンスだけが、まだ無い。

筆者が調べた限り、「良い現場」なるものを画一的に定義する要因は無い。無論、それっぽい記述は山のようにあり、そのいずれも、相応に正当性・妥当性がある。しかし、その指標や座標軸の多くは、「やる側の論理」、即ち、「現場で働く人の論理」は加味されていない。

日本で数位に入る現場を廻った自負がある筆者の視点でいえば、前述の“定着率”とともに、現場作業者の「通勤距離」の平均値、即ち、居住住所地から当該現場までの距離(直線距離でも通勤経路の距離でも構わないが軸を統一すること)を全員分足して、人数で割った通勤距離の平均を定点観測すると、現場作業者の働きやすさはもちろん、その現場の良し悪しの傾向が、ある程度、正確にいえるのではないかと考えている。
つまり、(好景気ファイズでは近くなっていくことはあまりないのだが)現場作業者の通勤距離があまり変わらないか、緩やかに遠ざかっている場合は、その物流現場は、生産性も定着率も、それなりにいい傾向にあり、その逆に、通勤距離が遠ざかっている物流現場は、物流KPIも、定性的な“人”を基軸にしたKPIも、悪化傾向にあるのではないか・・・と言えよう。

■人ありて物流 ~改善とは、それが必要だと思う人を創ること~

とかく、物流業界においては、最先端のマテハン、ロボット、システムやその他ソリューションを導入することばかり尊ばれる。無論、テクノロジーが進化し続ける限り、とりわけ、人件費が高い社会においては、あくなき自動化の追求というのは一つのテーマであるのだが、物流現場の全てが自動化しない以上、そこには働く人が必ずいる。物流センターの運営コストで見た時には、その4~8割にも達する“人”の部分を誰も科学していなかったことが不思議でならなかった。

9年前、ソリューション導入一辺倒の物流コンサルの姿に疑問を抱き、日雇い派遣会社に登録し、一日雇い派遣労働者として現場で働いてみた(「日雇い派遣体験記」 参照 )。以来、現場感覚を培い(自身が考えたロジックが、どの程度、実現出来るかを見極めるセンスを磨くため)、働く人の目線を失わずに、現場で働く人たちの動機や思い、働く背景に思いを馳せることが出来るように、時折、物流センターで作業をさせてもらうのをライフワークにしているが、最先端の機器が導入されている現場が、必ずしも、働きやすい物流現場では無い、ましてや、定着率の高い現場ではないということに気づき、物流現場で働く“人”について掘り下げてきた。

これほどまでに“人が足りない”今、物流業界の“顔役”の多くは、ロボット化やAIの可能性を説く。その主張に何の反論も無い。実際、年始に開催されたロボティクス展を見たが、製造業における産業機器の凄さに言葉を失ったほどだ。そこに、“AI”が導入され、時の経過とともに、単純作業は機械に奪われていくことになる。

しかし、様々なテクノロジーが進化した今日でさえ、WMSを始めとした最先端のソリューションが導入されているのは、物流業界のピラミッドのほんのひと握り。まだまだ、自動化とはほど遠い労働集約の現場も多い。最先端機器が、遍く物流現場に行き届くまでにはかなりの時間が掛る。ロボットに至っては、導入コストを負担できるプレイヤーも限られる。

そう考えたとき、筆者の考える改善とは、ソリューション導入効果を声高らかに説くことではなく、そういった最先端なことも含めて、「改善が必要であると、心から思う人を創ること」である。物流現場から人がいなくなるまでは、絶対に、「人があってこその物流」という価値観はゼロにはならない。

だとするならば、今、私たち物流業界が直面する“人が採れない”という問題は、例え、全自動化までの過渡期の現象、好景気期の刹那の事象であったとしても、私たち自身の発想やマインドを改善することでしか、変えていくことは出来ないのではないか。ひいては、私たち自身が変わることこそが大事なのではないだろうか。

物流業界全体からすると、“人が採れない”ことは、些細な課題なのかもしれないが、私たち自身の足もとにこそ、物流業界の自己改革、業界の体質改善の端緒があると思えてならない。


●延嘉隆氏プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

株式会社ロジラテジー代表取締役。
物流企業経営の視点で、財務戦略(事業承継・M&A・企業再生)・マーケティング戦略を融合し、物流企業の価値を上げる物流コンサルティングファームとして評価が高い。
物流企業を中心に、事業承継・相続、物流子会社の売却など、“ロジスティクス”、“卸”、“小売”などの財務課題で、卓越した経験を有する一方で、物流現場に作業員として入り、作業スタッフとの対話に勤しむ一面も。延氏の詳しいプロフィールはコチラ。

*本連載に関するお断り