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激甚大災害に備えていたBCPとは − 第2回 クライシスマネジメントと物流対策

95年の阪神淡路大震災、2001年同時多発テロ、そして新型ウィルスによるパンデミック騒動など、企業継続への障害対策がBCP=事業継続計画と呼ばれるものだ。
 その思想はマネジメント原則に合わせて、PDCAの手順が取り入れられているところに限界がある。
 災害を予測=PLANして、行動対処=DOを前もって確保しておき、対処=CHECKするという思想だから、火事も地震も停電もパンデミックも規模を予 測しておく前提がある。「どの程度の火災か、火事か、ウィルス被害か」という想定が覆られたとき、為す手を失うのは仕方がない。
 そもそもBCPを整備していた企業がどれほどあるのか。浦安の東京ディズニーリゾート=TDRは京成グループという日本資本による巨大なレジャーランド を米国からライセンス購入によって運営している。銀行団は東京湾埋め立て地という立地に対して、不動産担保価値を認めたがらなかったし、何より関東圏での 地震リスクを大きく認識していた。損保会社も同様にディスニーランドの資産価値を過小に見積もりしがちであった。
 株主への説明責任や財務保険問題から、TDRには災害に備えるためのソフトウェアが必須だったのである。当然自家発電装置も充実しており、同じ浦安で発生した送電線破壊による首都圏大停電時にも対応できていた。
 災害リスクのうちで来園者の被害を食い止めるためには、従業員の災害発生時の初動行動に重要なキーワードがある。来園者のパニックを押さえて2次災害を起こさないための冷静な行動をリードするには、キャストと呼ばれるバイトの現場行動が何より重要になる。
 TDRのBCPマニュアルは膨大かつ詳細にわたるのであろうが、意外とシンプルらしい。
 現場行動を最重視するためには、理論より具体的な行動が重要だ。マニュアルでどれほど言葉を尽くしても、行動を伴わなければ意味がない。そこで、TDR ではアトラクション毎に2日に1回、ほとんど毎日緊急対策行動のトレーニングを行っている。停電の際は、けが人が出たら、地震の時は、火事の時は、情報が 遮断されたときは、・・・・シナリオは多くとも、現場のバイト君達に刻み込まれている行動基準はわずか4ワードらしい。
 1 SAFETY=自身を含めて安全を最優先する
 2 CAUTECY=礼儀正しさ、ゲストへの態度や言葉遣いに冷静さを維持する
 3 SHOW=見せる、魅せる、楽しませるが原則。大声や命令は禁止
 4 EFECIENCY=効率重視。最期に経営的な視点を持ち、ムダや無理の排除

SCSEを徹底的に、そして優先順位を失わずに現場でできることに徹する。これこそがBCPのマニュアルであり、トレーニングの狙いだったそうであ る。サービス業と製造流通では目指すモノが違うから、習うべき点を選ばねばならないが、TDRでの初動対策は成功して被害を最小限に、ブランドイメージの 失墜も防止し、早くも1ヶ月目に再起動しているのは承知の点である。覚えることは最小限に、しかし徹底的にというのがTDRでの成功と覚えておきたい。

企業活動におけるBCPの最も重要な点は、マニュアルの構成や内容ではなく初動を取れるかどうか、という点に掛かっているだろう。
 マニュアルや文書のデメリットは明らかなのだから。更新ができない、周知徹底ができない、内容を理解できない、存在を知らない、見る読むタイミングな かった、読んだが誤解した、・・・・・BCPの有効性が問われているが、考えてみれば当然の帰結。ヒトは理論ではなく感情で行動していることに立ち戻れ ば、日頃の行動基準が何より重要であることの証拠となっている。
 これによって分かることは、BCPで描くべきシナリオは資源の損失割合に応じた従業員や経営者の自律行動の習性を知ることだ。
 災害を予測するのではなく、経営資源の損壊率に応じた自律行動を説くことが効果的なBCPそのものになるはずだ。想定外だった、という失言を繰り返すことの無意味さを覚えてきたい。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)