物流不動産ニュース

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物流コンサルタント JA-LPA評価員兼推進協議会委員 紙中英伸氏 − キーマンに聞く 第6回 

「キーマンに聞く」第6回目は物流コンサルタントとして多数の企業コンサルを手がけ、日本物流不動産評価機構(JA-LPA)の評価員兼推進協議会委員と しても活躍中の紙中コンサルティング代表、紙中英伸氏にお伺いします。同氏はデータ解析及びシミュレーションに基づく実践的なコンサルティングや、物流セ ンター設計、物流情報システム設計などを得意分野とお聞きしています。物流の理論と実務を熟知する同氏に、物流業界に訪れている変化に対応した拠点の有効 活用と、JA-LPAの役割について、お話を伺っていきます。

kaminaka

紙中コンサルティング代表・紙中氏

―経歴についてお聞かせください。

 東京理科大学経営工学研究科修了後、日通総合研究所に入所。日通総研には2005年まで20年弱勤務しておりました。

 在学中は応用統計を専門とし、TQC(トータル・クオリティー・コントロール=統合的な品質管理手法)の観点から、担当教授の助手として、実際に 企業の生産改善コンサルに関与しました。当時は物流改善の意識が芽生え始めたばかりであり、改善手法は確立されておらず、改善に必要となるデータ収集・解 析は未整備の状況でしたので、この分野の整備にお役に立てればとの想いから、日通総合研究所に入所した次第です。

 日通総合研究所での経験をもとに、2005年9月にフリーのコンサルタントとしての活動をスタート。理論と物流現場を結びつける実践的なコンサルティングを一貫して心がけ、現在まで多数の企業コンサルを手がけています。

―物流業界に関与されてからこれまで、業界ではどのような変化がありましたか?

 私がこの業界に入ったのは昭和の終わりで、振り返ればバブルの頂点に向かって突き進んでいる時代でした。世の中はまだ大量生産大量消費、作れば売 れる「売り手市場」のなか、流通・物流のムダがクローズアップされることはまだなかったと思います。それが高度成長期から安定期へと移り変わるにつれて消 費者の嗜好の多様化を生み、多品種少量多頻度物流が求められるようになってきました。バブル崩壊後、「何が売れるかわからない」時代がおとずれ、生産した 物が滞留したり残るようになり、大量の不良在庫が生じるようになったわけです。こうした中、物流コストはみるみるうちに上昇し、放置できない重要な経営問 題と化してきたわけです。

 この時期はまだ物流費がいくら掛かっているかわからない、という企業が非常に多かったのです。これでは削減も何も出来ないということで、輸送費や 保管費などの把握とその削減に取り組みだします。削減の観点はズバリ単価でした。坪4,000円で借りている倉庫が坪3,200円つまり20%単価を下げ て借りられれば、保管費用は20%下がるという「コスト削減手法?」が盛んに行われました。単価を下げることを物流業者側に求め、単価の安い業者を選別す ることで、コスト削減を図ったわけです。しかし業者側に余裕があったこの時期はともかく、単価がぎりぎりの状態となっている現在では、このような手法?は 限界にきています。現在でもこうした取組みに固執している企業が多いですが、きわめて前時代的な取り組みといわざるを得ません。失礼な言い方になります が、こうした単価切り下げしかコスト削減の仕方を知らないまだまだ企業が多いのが実情です。

「単価に着眼しても大幅な改善はもう出来ない。ローコストな物流の仕組みにどう変えていくかの問題なんだ」と気が付くかどうかが本当の意味での物流効率化・コスト削減を実現出来るかの鍵を握っているといえるのではないでしょうか。

―仕組みの問題とは、具体的にはどのようなことがあげられるでしょうか?

 これはよくいわれていることですが、メーカー工場からメーカーの物流拠点、そこから一次卸・二次卸と経由し小売店へと、いわゆる多段階流通がわが 国の特徴でした。物流経路も同様で、消費者の手に商品が渡るまで、何回も人の手に触れる「手垢の物流」つまり高コストな物流となっていたのです。

 ここに価格破壊の旗手といわれるディスカウンターが台頭し、流通経路の短絡化を図り、中間マージンを削減し、低価格化を推し進めていきました。し かし卸を通さなければ彼らが行ってきた機能を自らが行わなければなりません。当然物流についても新たな仕組みが必要となってきました。結果としてそれが大 きな物流コスト削減にもつながってきたのです。

 物流の仕組みというのは、在庫をどこに置くか、物流拠点をどのように配置するかでほとんど決まるのです。物流を見直すというのは、現在使っている倉庫などの立地や物流機能を見直すことなのです。
 メーカー側は卸を経由しない物流をことで、必然的に卸がやっていた機能を付加する必要性がでてきました。倉庫では従来のようにパレット単位に山積して商 品を保管するのでは、ケース・バラ単位での出荷要請に対応することは出来なくなり、物流施設や保管機器のあり方を変える必要がでてきました。こうした動向 はメーカーに限らず、卸・小売にも起こり、従来のようなメーカー・卸・小売の業態の垣根がなくなることになったのです。

 倉庫に求められる機能が保管型から通過・流通加工型へと変化したのも、必要とする物流機能の見直しから起こったものなのです。

―物流の仕組みや求められる機能が変わってきているなか、物流不動産はどのような役割を果たすのでしょうか。

 従来の施設では、今求められる機能を果たすことができなくなったケースは多々あります。その際、立地を含めて適した物件に移ればいい、という考え になるのですが、自社の物件を頻繁にかえるのは難しい、だったら物流不動産を活用していこうという話につながるわけです。そのほか、オフバランス化に対応 した形として、物流不動産は注目されているわけです。

 現在、物流不動産は外資系ファンドなどを中心として、かなり規模の大きな物件が活発に動いているようにもみえますが、すそ野はまだ広がっておらず 市場として未整備なところがあって、マンション・オフィスのように拠点の住み替えを自由に行えるかというと、実際のところは適当な物件を見つけるのは難し いでしょう。もちろん企業側にも制約があるわけです。物流不動産施設を活用し移転先が見つかったとしても、空きスペースとなった自社拠点をどうするか課題 として残るため、留まるケースもあるでしょう。

―物流不動産市場を整備する取り組みが必要となるわけですね。

 私が参画している「日本物流不動産評価機構(JA-LPA)」では、まさに施設の流動化を促進するため、安心して物流不動産を活用できる市場育成に向けた取組みをしているところです。

 物流施設はオフィス・マンションとは違い、立地・施設などの条件に加え、物流機能など、さまざまな要素を加味され、サブリースを含め契約形態が多岐に渡ることから、従来、客観的な評価基準がないままに取引がなされ、それが市場の育成を阻害してきたと考えています。

 そのため、JA-LPAでは、①公正中立な立場から誰もがわかりやすい形で、適正な評価書を作成する、②取引したい倉庫情報を開示する場を提供す る、③自社が持つ物流拠点がどれだけの価値があるものかを算出し、手を加えることで収益の向上が図られる場合、補修のポイントを指摘する-など、適正な評 価基準の作成と施設流動化の後押しにつながるサービスを提供しているところです。

 当然のことながら、こうしたことを行うためには、従来の建築・不動産知識にとどまらず、物流の仕組みを熟知しているスタッフが不可欠であり、日通総研時代からの物流コンサルタントとしてのノウハウを提供し、寄与していくことが、私の与えられた役割だと思っています。

 現在の物流施設の取引は大手を主体とした施設が中心で、中小規模物件の市場は十分、育成しておらず、やはり裾野を広げていかなければならないと 思っています。本来、住宅・オフィスと物流施設の収益性・利回りは違うわけですが、きちんとした評価が提示できなければ、投資家はサブプライム問題を例に 出すまでもなく、ハイリスクと考えるでしょう。今後、中小規模市場が育成しないばかりか、投機が離れる可能性さえ危惧されるのです。適正な評価のもとに、 収益性・利回りを提供する物件実績が増えてくれば、こうした懸念が払拭し、市場が本当の意味で根付くと考えています。

―JA-LPAの今後の展開について、お聞かせください。

 イーソーコをはじめ、参加メンバーとの連携のもと、JA-LPAの施設評価データベースを時系列かつ広範囲で捉えられる構造にブラッシュアップし ていこうと取り組んでいるところです。同時に、このデータベースを読み込む専門スタッフを育成していく方針で、データベースを活用しながら、倉庫市況短観 を随時、提供していければと考えています。流通の変化によって物流はどう変わっていくのか、そのとき物流拠点としてどの地域が有望なのか、賃料相場はどう 変化していくのか、といった的確なトレンドを公正・中立な立場で発信していきたいと考えています。

 また現在の物流不動産施設の多くは、巨大施設で、ランプウェイ方式を取り入れ、通過型の機能は持ちつつも、テナント側が入居後に多くの機能を取り 揃える必要性があります。その意味では今後の物流機能を見据えた施設設計のあり方を十分に検討していかなければならないとも思っています。テナント側が求 める拠点機能の多様化に応え、ジャストフィットする施設であるとともに、汎用性・流動性を兼ね備えた施設という二律背反を解消することが物流不動産市場、 物流業界の発展につながります。そのための環境づくりに貢献していけるよう、尽力していきたいと考えております。