物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
最新ニュース・情報を発信しています。

  • メール会員情報変更
  • メールマガジンバックナンバー
  • ニュースメール配信登録

倉庫と考現学 

考現学という学問がある。いま現在の世の中にあるさまざまなモノや社会現象、風俗などを研究し、現代とは何かを考える学問だ。学問といっても専門に教える学校や研究機関があるわけではなく、研究成果に評価を与えるような組織もない。学統もほとんど途切れ、その研究手法や目的は現在では民俗学や社会学、文化人類学などに置き換わっているから、正確には「あった」というべきだろうか。

名称は考古学をもじったもので、研究手法も似たところがある。考古学が遺跡で発掘した古代の遺物に基づいてさまざまな研究をするように、考現学では街なかでありとあらゆるものを「採集」し、それをもとに研究を行う。採集といっても持って帰れるものばかりではないから、街なかでスケッチしたり、インタビューしたり、数量や時間の統計をとったりする。具体的には、街行く人の服装を分類したり、人の歩く速度を調べたり、建物の造作物について比較したり、住居内のものを職業別に調べたりする。その結果に考察を加えて発表することでなにがしかの示唆を世の中に還元し、課題解決や物事の改善、新しい発想などに役立てようというものである。

世の中のありとあらゆるモノやコトが研究対象となるから、学問とはいえ興味本位の研究も少なくない。最近でいうと、ファッション誌に掲載されているような服装のスナップとか、窓やドアばかりを集めた写真集、マンホールや街灯にクローズアップしたブログとか、誤植ばかり集めた本とか、あるいは路上観察会とか。そういったものが考現学の系譜を引いていると言えるかもしれない。要するに、今日では趣味の範疇に収まってしまっているのだ。

そこで筆者は考える。日々進化する倉庫や物流は、本来の意味での考現学の、格好の研究対象なのではないだろうか。例えば平成の30年間で倉庫や物流を取り巻く環境は大きく変わり、ハードもソフトも変わった。しかしその変化の一部分でも切り取り、きちんと考察した例を筆者は知らない。倉庫は積層化されて巨大化し、トラックバースやランプウェイが付いているのが当たり前になった。そのなかの一部分でもいい。ランプウェイの角度とかループの直径とか、外観のデザインであるとか、配管の取り回しとか、そういったものを収集して考察する価値はじゅうぶんにあると思う。そこからは倉庫の設置者や使用者の意思が、あるいは習性が、必ず浮かび上がってくるはずでる。建築学や工学上の効率性といった切り口ではなく、考現学の手法においてこそこうしたものは考察できるのである。

考現学には、現代を考えるのが目的でありながら未来においても価値を保ち続けるという側面もある。いちど収集され考察されたものは長い年月を経てもその輝きを失わないばかりか、むしろ当時を知る貴重な資料となって残るのである。考現学の考え方が生まれたのは大正期の日本だが、その記録は当時の風俗を知るためのヒントを現在のわれわれに与え続けている。

はたして平成期が生んだいま現在の倉庫や物流には、何が内包されているのか。倉庫や物流を見る目は、画一的になってはいないだろうか。その視点は、偏ってはいないだろうか。物流はこの先、前例がないほど大きく変化すると予測されている。新たな時代に突入しつつある今こそ、あらゆる角度からその本質を考察しておくのも有益だろう。目的地への道のりを知るためには、現在地を知らなければならないのだから。

 

久保純一 2019.5.5