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【レポート】第10回JA-LPA 主催セミナー「物流不動産の新時代~変貌の先に見えるもの~」 

日本物流不動産評価機構(JA-LPA、東京都港区)は10月20日、毎年恒例のセミナーを東京都港区の日本通運本社で開催、約250名の来場者で賑わいを見せました。第10回を迎えた今回のテーマは「物流不動産の新時代~変貌の先に見えるもの~」として、節目の年にあたり、物流不動産のこれからの10年間について発表がありました。

全体

セミナーでは日本物流不動産評価機構 推進協議会 望月光政委員長(代表理事)より挨拶の後、以下のプログラムで行われました。


▼基調講演 
 

「最新の物流政策について」~物流総合効率化法の改正と物流生産性革命~
   国土交通省 大臣官房参事官(物流産業)川上 泰司氏

川上氏

川上参事官は国土計画局総合計画課 企画専門官、復興庁統括官付参事官などを経て、この6月より物流産業担当に就任。冒頭、川上氏は国交省の物流政策の柱について、(1)労働生産性2割アップを狙った「物流生産性革命」、(2)地球環境の保全を推進する「物流のグリーン化」、(3)支援物資輸送体制の構築した「災害に強い物流システム」、の3点を表明しました。

国交省では物流コスト削減や環境負荷の低減等を図るなど、物流の効率的運用を実施する事業に対して、計画認定や関連支援措置等を定めた「物流総合効率化法」(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法/以下、物効法)を10月1日、平成17年(2005年)の制定以来、初となる改正が実施しています。

同法はドライバーなどの労働力不足や多頻度小口輸送の進展等を背景に、物流分野の省力化、環境負荷低減を推進するため、物流事業者による物流効率化の取組みを支援。国交省が取組む重点項目である物流生産性革命に大きく関与するもので、「経産省や厚労省、農水省とも連携した<オールジャパン>で推進する。トラック輸送能力の6割は使用されていないことや、1回の運行で2時間弱の手待ち時間発生、宅配便の2割は再配達となるなど、物流に関する無駄を大幅に排除して、生産性を向上させていく」と川上氏は物効法改正の背景を紹介しました。

物効法は流通業務の総合化(輸送、保管、荷さばき及び流通加工の一体的実施)及び効率化(輸送の合理化)を図り、流通業務総合効率化事業と認定された事業に対し、以下の支援を行います。計画策定経費・運行経費の補助、事業開始に当たり倉庫業、貨物自動車運送事業等の許可等、事業の立ち上げ・実施の促進。また輸送連携型倉庫への税制特例として、法人税の割増償却10%(5年間)、固定資産税の課税を5年間の半減、市街化調整区域の開発許可、旅客鉄道を活用した貨物輸送への税制特例(貨物用車両・搬送装置)では、固定資産税の課税標準を向う5年間、3分の2とする等の補助制度が盛り込まれています。

国交省では2020年まで、付加価値額(1時間当たり)2割向上、貨物鉄道によるモーダルシフトでは2012年度比34億トンキロ分の転換 (2012年 187億トンキロ)、内航海運モーダルシフトでは34億トンキロ分の転換 (2012年 333億トンキロ)のを目標値としている他、モデル的共同輸配送の100事例、トラックの予約システム等導入等、輸送円滑化措置を講じた倉庫では150事例を創出する計画です。

 

▼セミナー1  

「マイナス金利と物流不動産投資」 ~金融機関の視点から~
(株)日本政策投資銀行 企業金融第3部課長 土屋勝俊 氏 

土屋氏

日銀がマイナス金利導入決定を1月29日に公表してから、9か月を迎えようとしていますが、土屋氏は「我々は出資・投資を行う金融機関の立ち位置から、最近の物流不動産についての融資についてお話したい」として7月29日のマイナス金利深掘見送り、9月21日の長期金利(10年債0%誘導)の流れを紹介。

「直近5年間は金利の低下を感じている方の割合が多くなっているが、今年3月の推移では借入金利水準の低下が顕著になった」と土屋氏。物流特化型の上場REIT(投資法人)の借入利率の一例では、1月のマイナス金利導入前に0.42135%の利率で借入され、8月の段階の金利は0.29%まで引き下げられた投資法人の事例を紹介しました(手数料、その他コストの有無は不明)。

日銀短観の不動産業における金融機関の貸出状況では、大企業ほど貸出態度が<緩くなり、中堅企業、中小企業と会社規模が小さくなるにつれて、金融機関の厳しくなったと感じていた一方で、マイナス金利導入によりいずれも緩く右肩上がりに推移しています。

投資に関しては私募ファンドほか、形態はさまざまとなりますが、2月以降の不動産投資信託証券売買状況では1月以降に前年比上回っており、「マイナス金利により、比較的利回りの高いREITにお金が流れている」(同)状態で,国内不動産の私募ファンドは4年ぶりに増加に転じて、投資意欲も高まっている」と土屋氏。物流に特化してみると、「ホテルの次に高い投資意欲が示されている」としています。

マルチテナント型物流施設のキャップレート(還元利回)の推移では、東京湾岸部(江東区)は2011年11月の段階で6.4%から今年4月には5%となっています。仮に3億円の収益を生み出す物件の場合、5%では60億円の物件価値、10%では30億円となり「キャップレートが下がれば不動産の価値は向上する」と土屋氏は指摘します。

土屋氏は「物流不動産は近年、投資対象の認知度が上がっており、他の投資対象と比較しても意欲的な投資は行われている状況」と展望しました。

▼セミナー2 

「物流施設の診断・評価基準」~施設の品質と機能の考え方の解説~
 日本物流不動産評価機構 代表理事 望月光政氏

望月氏

望月氏は、日本物流不動産評価機構(JA-LPA)について、物流施設における第三者の中立的立場で診断評価基準を専門家がコンサルティングを行う事業であることを冒頭紹介した後で、国内での物流動向が大きく変化しているキーワードとして、(1)流通加工に伴うサービスの向上、(2)生産在庫の総量極小化、(3)スピードの伴う小口化――の3点を挙げます。

「求められているのは顧客ニーズに合わせた機能。首都圏近郊に続々完成されている大型配送センターなどがこれに当たるだろう」と望月氏。その一方で 倉庫オーナーは施設の長寿命化を求め、大企業の荷主は大型物流センター型のニーズがあります。都市においては 既設倉庫の再利用(リノベーション)も増加しています。

望月氏は物流施設で確保しなければならない条件として。「品質、設計や施工精度にもよるが、頑丈に作ること、耐用年数を長く、そして必要以上に過剰にならないこと」として望月氏は物流不動産に求められる条件は、土地の有効利用 建物の品質、建築費の安さ、維持管理が簡単なこと、施設の汎用性があることで「安く作るためにはコツがある」(望月氏)。

それを背景としてJA-LPAでは来年1月、日本物流不動産評価機構 物流施設調査員 育成講座「物流施設の診断・評価の知識と実地調査方法」を開講します。同講座では、建物診断と物流診断について、2日間の短期講習で物流施設の診断・評価を行うための知識の取得と実地調査方法を学べることを強調しました。

同講座では新規に作成した解説書等をもとに、「診断基準と考え方」「配置・外構」「フローチャート」「 建物(マーク一覧)」「基本計画チェックリスト」「躯体と構造」「立地 仕上(外部・内部)」「敷地」「設備」「法令関係」などを学ぶことができ、受講修了者には 「物流施設の診断・評価の知識と実地調査方法」講座の受講終了証を授与するほか。JA-LPAの「物流施設調査員」資格を取得可能となります。

 

▼セミナー3

「物流不動産の未来予測」施設の品質と機能の考え方の解説~
 日本物流不動産評価機構 副代表理事 河田 榮司氏(日本物流施設株式会社 代表)

河田氏

河田氏は、物流不動産を取り巻くここ10年間の環境変化として、不動産投資増大と共に物流施設数が大幅に増加したことや物流センターの超大型化、高層物流センターの増加を挙げます。投資面では不動産投資信託やファンドによる物流施設保有の進展、物流施設の所有からオフバランスの施設利用が増加した点、Eコマース専用物流センターが増加したことなどを紹介、道路網などの交通インフラの変化、Eコマースの進展による物流システムの変化を挙げました。

34兆円市場といわれる運輸業界ですが、うち物流産業は24億円を占めます。河田氏は「物流企業による物流企業のための物流施設に向け、10年後を勝ち抜く差別化要因が欠かせない」として、

・物流不動産は総合不動産ビジネスへ進展

・独自の価値の創造が差別化要因に

・コンプライアンスに則した施設管理と運用

・建築デザインや快適性などソフト面の重要性

・安全性を高める建築技術の採用

・効率性の高い物流設備の集約

の6点を解説。河田氏は「物流を制する者は事業を制する」として、改正物効法でもポイントとなる複数企業による不動産活用についての重要性を説きました。

▼セミナー4 

「物流業を改革する物流不動産ビジネス」~人財を確保し教育して物流UPを育成する~
 日本物流不動産評価機構 理事 大谷 巌一 (イーソーコグループ 会長)

大谷会長

大谷氏は冒頭、「本日のご来場は40%が物流事業者の方、30%は不動産業者の方となり、その他はシンクタンクの方など、多岐にわたっています。本日のセミナーを機に、ビジネスチャンスを創出していただきたい」と話した上で、危機に直面する物流業界について、産業の空洞化により日本の製造業が続々ASEANに進出している点、規制緩和による新規企業の業界参入について紹介しました。

「近年のサプライチェーンではメーカー、卸が物流を飲み込みはじめている」と大谷氏。「メガ倉庫が増えてきたことで物流は確実に強固なものとなっているが、労働単価は年々低下している。弁当が値下がりするのは物流力による効果だが、現場で働いている人たちは大変だろう」と語ります。そこで大谷氏が主張するのが「物流業界はレッドオーシャンである」こと。過当競争市場が加速している業界は、労働集約型としてその未来を嘆きます。

大谷氏は流通経済大学の客員教授として年に複数回、学生たちに講義を行いますが、日本通運の資本が入っている大学ではあるものの、物流業志望の学生は18%に過ぎません。他の大学に招かれて講演をした際にアンケートしたところ、平均すると物流業を仕事にしたいと考えている学生は10%程度に過ぎませんでした。

学生たちが物流を敬遠するのは、長時間労働を強いられるため時給換算すると低賃金だということと、「将来が見えない業種だからだ」と大谷氏は分析します。ドライバー不足が叫ばれている昨今の風潮もあり、魅力ある業界とは程遠い現状があります。

とはいえ、日本を代表する大手物流事業者の再編、アマゾンを代表するEC事業者の台頭など、物流に関しての話題は事欠きませんが、イーソーコが注力するのは若手社員の採用と人材教育です。その一環で2015年から開始した大学生を対象としたインターンシップは、今年は19名が参加、中でも熱心な学生は長期インターンに5名が参加しています。

イーソーコが展開する物流不動産ビジネスは、空いた倉庫を物流用途に限定することなく多目的に活用される過程で、物流ノウハウ、不動産や建築、金融、流通、ITなどの業務ノウハウを営業ツールとして取り入れていきます。大谷氏は物流不動産ビジネスを成功に導くポイントはIoTと人財であるとしています。関連分野に精通した人材を「物流ユーティリティープレイヤー」と呼称し、「彼らが物流を暗い・きつい・危険の3Kから、稼げる・格好いい・感動する――の新3Kの魅力的な業界に変えてくれると期待しています」(大谷氏)

大谷氏は「物流業界を<改革>で活性化させ、若い人達に夢のある業界を目指したい」と声高に主張し、終了しました。

記念写真質疑応答終了後、参加者で記念撮影