日本の将来像 − 第11回 経済政策用語解説
日本を今、世界はどのように見ているか、私たちはその期待にどのように応えてゆけるのか、そしてそのための問題点と課題は何かを整理してみましょう。
1980年代世界第二位の経済的な成長を終えて、日本は人口のピークを境にしてアジアの台頭もあって、現在は第三位に位置づけられています。依然として、先進国の仲間入りをしていますが、実は世界をリードするような経済力、文化力、外交力があるようには感じられません。それは、バブル崩壊からの脱出がいまだにできずにいるからです。
世界はインフレとデフレという経済の運動を乗り越えて、産業転換や福祉政治の転換を図ろうとして、成功も失敗も続けてきています。失敗は恐れることですが、失敗の反省によって成功への道筋を描くことができるものです。けれども、日本は失敗を認めたがらない変な性癖があるように思えてなりません。
バブル崩壊は金融体制の欠落と失格によって引き起こされました。実体を伴わない投資や資金の流動が、狭い国土の日本に昔からあった「土地神話」を増長させて転落したのです。日本銀行のゼロ金利政策が過剰投資を呼び込んで、不動産バブルとなりました。時が経てば必ず高騰は暴落へと連なりますから、そのようになり、そして再び高騰するような政策を発動していましたが、同床異夢のように失敗に懲りたはずの人々は過ちを繰り返したのです。
金融業界は、再びリーマンショックを経験してしまったのです。あれは起こるべくして起きた、金融業界の必然だったのです。その前にも実は、社会主義と資本主義のどちらが優れていたかの判定があったのに、暴走したのは金融でした。
金融経済はそのころから実体とは別の稼ぎ口を見つけていて、金融機関はギャンブルとそっくりなマネーゲームで勝負を賭けつづけています。それが証券市場であり、外国為替市場、商品相場なのです。実体と連動しない株や資金の流れは、中央銀行の金利や供給量操作では反応せず、従って世界同時不況や為替事件が世界中で頻発しているのが現実です。
社会主義が負けて資本主義が勝ち、金融業界が失敗して産業転換が遅れているわけではありませんが、経済成長の重要な人口問題が日本を悩ませています。
それは、少子高齢化という先進国の固有の問題であり、解決しなければならない重要な課題なのです。
生物の経済も一本調子で成長するものではなく、成熟と停滞、衰退はものの真理です。かつての世界制覇を行い得た大英帝国の経験を見ても、どのような歴史を振り返っても、諸行無常の響きがあり、盛者必衰の理(ことわり)があるからです。
ただひとつ、国家が安泰を過ごすためには産業が代わり、価値観が転換し、優れたものを伸ばし、活かし、そして世代交代が行われなければなりません。日本の時代は確かにありました。これからは広くアジアの時代です。
資本主義での南北問題が地球主義での南北転換に変わるのが、これからの出来事なのです。
日本にはまだまだ優れた文化や歴史資産が残されています。アニメや伝統芸能が世界に広まっているように、これからも食品や技術、文化や価値観で世界に価値ある国として続くことでしょう。ただし、経済一辺倒や技術本位ではないのかもしれません。
テレビやインターネットという技術が世界を変えたように、そして巨大な成長をもたらしましたが、これからは世界一の長寿国、高齢化の先進国、大量消費ではなく地球との共生を新しい価値として広めてゆかねばなりません。
日本と同じ道をアジアが歩めば、食料もエネルギーも全く足りなくなるのは明らかだからです。大量消費や高度経済成長が、どれほど地球を痛めつけ、翻って人類に不幸をもたらすかは、日本が経験して来ました。有機水銀による水質汚染による水俣病や、大気汚染による四日市ぜんそくといった四大公害病を初め、最先端の原子力発電所の事故によっても多くの学びがありました。
エネルギーには限界があり、食料や資源は地球から奪うものではないのです。ビジネスがマネーだけではなく、宇宙へのインパクトを与えることができるかどうか、人類の幸福と繁栄を続けられるかどうかは、小さな島国の奇跡を経験した日本にしか考えだすことは出来ないはずなのです。
経済政策と物流マーケットの連載を終え、次回からは『大きく変わる業種・産業界と物流』というテーマを取り上げます。
(了)
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)