自律性を育てる - 第13回 物流不動産Bizの人材開発
人材の育成に必要な企業側、雇用側の課題を整理してゆこう。労働者の流動性が今ほど高まり、同時に学卒者の割合が高い時代はなかった。大学進学率が50%を越えていて、高等教育が世界に並ぶようになった日本ではあるが、仕事を学ぶ機会は少なく、また雇用される側の意識が高まっているとは言いがたい。自らが考え行動を起こすためには、周りからの働きかけが必要だ。
自考、自行の問いかけ方
- 今何が起きているのか(現状把握の力)
- その理由は何か(分析の力)
- では、どうすれば良いのか(立案と行動の力)
日本古来の雇用慣習であった終身雇用、年功序列、企業内組合という3つの柱は完全に崩れ去り、しかしながら学卒の一括採用と中途採用の二本の柱は健在だ。企業内で育成するか、即戦力を期待してメンバーに迎え入れるかの道しかなかったが、派遣事業者からの非正規雇用がある程度の専門性を担保して、企業内部の間接部門を請け負うようになっている。
営業部隊そのものもアウトソーシングという手も登場してはいるが、依然として企業内部の基幹業務である経営幹部、営業、生産部門はキャリアパスによって育成しなくてはならない実情がある。
では、人材育成にあたっての要諦とはどこにあるだろうか。企業のビジネスモデルを明確にしておくことも重要であるが、顧客やマーケットの動向に敏感であり、同時に企業収益のベクトルがぶれては困る。顧客満足の追究によって企業の存続を図るためには、「不都合のバランス」を理解するする知見が欠かせない。<不都合>とはアンマッチのことである。売りたいが買い手が出てこない。買いたいが売り手が見つからない。表面的な価格や条件が折り合わない状態だ。
競合の多さや顧客の少なさが原因であれば、そこに手を打てば良い。
条件の折り合いがつかないのは、要求の本質と提供の効果を改めて検証することだ。
営業のセオリーを学び、生産の技術を習得し、採算収支の計算ができるような知識を踏まえ、なおその上に「顧客と自社の不都合」を調整して解決してゆかねばならない。
優秀な人材とは「一を聞いて十を知る」という迅速さや回転の速さではないはずだ。リーダーの知見が常に正解とは限らず、外部環境は時代とともに変化しているからだ。
物流サービスに限らず、企業のビジネスモデルは顧客価値の提供にある。価値は比較されるものであり、絶対的な指標ではない。価格や量ではなく、機能と効用なのだ。
「この顧客にとっての最大価値は何か、自社にとっての最大価値はどこに見いだせるか」
この自問と内省なくして、優れた人材の行動は生まれない。育成する側の信条として、どのような業務活動や役割であろうとも、「自社と顧客の不都合」に思いが至らなければならない。
売ることは、その価値を自社と顧客で分かち合うことであり、高く売る、安く売ることの対立ではない。育成側、企業側にこのビジョンや理念が現れていなければ、ヒトは思いの外横道にそれてしまうものだ。「言われたことはする。しない。自ら行動を起こすことはない」という受け身や不十分な人材が育つなら、どれほど人数や組織を拡大しても成果は生まれない。
育てるとは預かることである。ヒトの人生が80年であり、労働や業務に従事する時間が30年程度であるなら、そのヒトの人生を企業が利用させていただく、使わせていただくことになる。年間2000時間を価値ある意義ある成果あるモノにするためには、<自らの行動>を再重視しなければならず、その方向や動機をブレの無いものにしなければならない。
ビジネスモデル構造を理解し、その中での役割を見出させ、そして<不都合>の存在を自問し、内省する人材が必要なのだ。<自ら行動する人材の育成>、これこそが育てる極意であり目的でなければならない。
分からないから、できない
分かっていても、やりたくない
こんな従業員が残っている限り、育成する環境になっていないことを初めに知っておきたい。
イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント 花房 陵