後継者の育成 - 第19回 物流不動産Bizの人材開発
経営幹部がそのまま後継者になることを誰もが期待してはいるが、問題は時代の波に乗れば良いのか、という戦略と実行の課題だ。経営幹部は現経営者の意図を汲みながらベテランとして成長はしているだろう。しかし、時代の変節期において「踏襲が因縁となる脅威」は常に残る。
100年を越えて継続する企業はあらゆる変節に耐えてきた。社会の進化や変化も受け入れながら、ある時には本業を大改革する必要もある。世界的な名門企業ですら、創業本業を「創造的破壊」によって事業転換している事例は多くある。我が国の財閥系列の名門倉庫業も実際のところ、物流事業よりも不動産ビル開発や付属事業で本業を塗り替えようとしている。
GE社は家電事業を放棄した。アメリカンエクスプレスは運輸業から金融カード事業で成長を遂げてきた。物流サービスは経済の土台を支える重要な産業ではあるが、規制緩和の流れに応じて事業の多角化を積極的に進めたほうが存在感を維持できる場合もある。
今、単純輸送と保管業務に徹している物流業は稀である。総合物流サービス業として、輸送と保管の上流下流を飲み込んだ総合サービスに転換している最中とは言えないだろうか。
歴史と伝統を守ることは重要ではあるが、時代のニーズや競合との棲み分けに不安はないだろうか。経営を引き継ぐというのは、現状を守り、さらなる成長や存続を図ることであり、事業を守ることと攻める事業の開発を同時にこなさねばならない。
いわば現行事業を守り、そこにイノベーション(革新)とインベンション(発明)が必要なのだ。
すると、どのような人材がふさわしいかの判断や選択基準は大きく変わってくる。現経営者の意向を汲む能力なのか、それとも視野を外部に求めて時代の正解を追求する姿勢なのか、ということである。
後継者に欠かせない資質を整理すると、
- 既存事業の歴史的な正しい判断を下せる能力
- 現経営者の意向を踏まえながらも、正しい軌道修正を描ける能力
- 既存の従業員や取引先から尊敬を集め、注目される意思決定を下す能力
能力とは現在の学力や知力ではない、将来的に持ちうる可能性でも良いのだ。保守と革新のマインドを持ち、現在のチームワークを一層高める事ができる人望と人格が必要になることは言うまでもない。絶対的に欠かせない資質は、「人の話を受け入れ、人が納得できる意思決定を下せること」ということになるだろう。
アメリカの鉄鋼王、アンドリュー・カーネギーの墓標にはこう刻まれている。
自分より賢き者を近づける術知りたる者、ここに眠る
優れたる経営者はそのまわりに更に優れたるものを引き寄せる魅力がある。そのことに気づく者こそが後継者の器と言えるのだ。
イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント 花房 陵