物流業界の戦略 − 第5回 物流不動産不況と戦略
物流業の経営戦略に5つのパターンが読み取れます。外部要因である経済成長に合わせて規模を拡大してきた「計画戦略」、ユーザー要望に合わせて自社を変革しながらサービスを増殖してきた「創発戦略」、自社の得意領域を定めて競合他社との優位性を一気に拡大した「ポジショニング戦略」、同じく自社の経営資源である人モノの洗練性を活用した「リソース・ビュー戦略」、活動領域の地域性を意識して競合との一騎打ちを仕掛けては勝ち抜く「ゲーム理論戦略」、そして僅かな強みをチャンスにネットワークを構成する「中小企業型ネットワーク戦略」という5つの形態です。
それぞれの違いは僅かでも選択と集中によって、各企業の持つ資源の効率化と営業の強化を図ってきました。「なんでもする、どこにでも出向く」というのでは、誰も見向きもしませんでした。
なんでもする=何ごとにも得意ではない という公式が、コストやサービスレベルの違いになっていたからです。いずれの企業も会社案内や経営トップのメッセージには違いがありませんでした。見ても分からない、聞いても違いがない、あるのは既存商材や経営資源の規模の違いだけでした。
どれほどトラックを保有して物流施設を配していても、利益率や利益の金額に相関性はなく、経営戦略の違いが明かでした。世界一に輝いていた日本通運、今現在の世界一のコストを抱える日本郵政も利益率や額では中堅よりもはるかに劣ります。これはなぜなのでしょう。事業規模の拡大が必ずしも利益に結びつかないはコングロマリットデメリットと呼んで、経営学の研究成果の見本となっています。大企業が大収益を上げられたのは昔日の想い出なのです。
多角化事業の成功は束の間の夢で、見事に墜落してゆくのはさまざまな業界で検証されてきました。もっとも国家予算レベルまで拡大してきたウォールマートまでは別ですが。
ここに物流業界の400年の歴史と停滞が証明されようとしています。
戦略や理念では食べることが出来ないではないか、といつも言われてきましたが、大不況下の現在では差別化要素と経営のうまさ、まずさが戦略に表れています。戦略の失敗は決して取り返せない、という格言もまた真実なのです。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)