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空き家と福祉 

最近、福祉施設を運営している都内のあるNPO法人と知り合った。精神障害者の支援をさまざまな形で行っているのだが、なかでも特徴的なのがアパートやマンションの居室を活用したグループホームだ。アパートやマンションの居室を借り上げ、社会復帰を目指す障害者の一人暮らしの練習や、一時的に具合が悪くなった人の休養先、家族などの介護者が不在の際の預かり先などとして活用しているのである。

先日知った別の福祉法人は、空き家となった戸建住宅を改装し高齢者のデイサービス施設として活用している。こちらはある地方都市の郊外だが、高齢化・過疎化と高齢者介護施設の必要性がマッチした結果、地域内の空き家を使うことになったのだという。

少子化や高齢化、地方の過疎化は日本の経済を先細りさせる大きな要因、という認識を持つ人がほとんどだろう。かくいう筆者も大枠ではその論を支持するが、しかし全ての業種がシュリンクするとは考えていない。不動産市場もそのひとつで、例えば福祉や介護といったニーズは今後も増加していくと見ていいだろう。現に2法人とも、現状でも使える物件が足りていないという。

この2法人が必要としているのは「生活感のある物件」。前者はワンルームや1Kのアパート・マンションで、後者は一戸建ての空き家だ。前者はワンルームマンション・アパート投資ブームでだぶついた物件が活かせそうだし、後者は昨今の空き家問題に対する回答のひとつとなるかもしれない。

不動産業界では一時期高齢者施設の開発が活発化し、その手法は完全に定着したといっていい。独身寮を高齢者施設に改装した例なども少なくなく、不動産と高齢者を結びつける考え方はもはや一般化している。しかしアパートやマンションの空室、あるいは戸建の空き家を、そのまま障害者や高齢者の施設として活用するスキームというのはまだ確立されていない。

活用策といっても特に難しいことはない。施設を運営する福祉法人などに、空いている物件をほぼそのまま貸し出すだけである。大規模な資本を必要とせず、個々の規模が小さいため大手の業者も参入しにくく、個人オーナーの面目躍如たるところといっていい。しかし大手が参入していないということは、一般への認知度も低いということだ。現状では、仲介業者などを通じて物件を貸してほしいという依頼が来ないかぎり、物件オーナーと施設を運営する法人とが接触できる機会はないといっていい。仮にこうした活用策を知っている物件オーナーがいたところで、オーナー側からアプローチすることはできないのである。

そこで両法人の関係者が訴えかけているのが、福祉施設と物件オーナーとをつなぐプラットフォームの必要性だ。空き物件を持っているオーナーと、それを福祉のために使いたいという施設運営者とをマッチングするのである。市区町村単位で、空き家活用の一環としてこうした事業をはじめている自治体はあるが、訴求力が不足している上に細やかな対応も難しいようだ。しかしビジネスとして成り立つ可能性は充分にあるし、社会貢献という意味もある。これ、不動産業者でもなんでもいいから誰かやらないだろうか。

すべての人が住みやすい世の中をつくる、その手伝いができるなんて幸せだと思うのだが。そのうえ空き物件が貸せるなんて、ほんとうに誰かやらないだろうか。

 

久保純一 2018.4.20