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オフィス改革はオリンピックですすむ? 

東京で2回目のオリンピックが開催されるまで、ちょうど1年となった。日本中が熱狂で包まれた前回、1964年のオリンピックでは数々の名場面が生まれ、今でも語り継がれている。一方その舞台裏では、人々の日常を変えるさまざまなものも登場していたのである。

例えば冷凍食品。今や多くの家庭で必需品といっても過言ではない冷食の本格的な普及は、オリンピックが契機といわれている。選手村の食堂では、各国の選手や役員など1万人に食事を提供しなければならない。しかし1万人分もの食材を短期に仕入れれば、食料品の価格高騰や品数不足など都民の食卓にも影響を及ぼしてしまう。仮に食材が確保できたとしても、それを迅速に調理して同じクオリティの料理を提供するというもうひとつのハードルがある。日本全国から集められた300人の腕利き料理人の技術を持ってしても、その計画は現実的ではなかったという。

そこで考え出されたのが、冷凍食品の活用。事前に食材を確保し、冷凍保存しておくのだ。必要に応じて下ごしらえや調理もしておくことで、料理として提供する際のクオリティも保てる。メーカーとの試行錯誤のすえようやく実用に耐える品質に達し、オリンピックは食堂運営も含め成功裏に閉幕することができた。食材の確保と迅速な提供を可能にした多くのアイデアは製品となって世に出、やがて全国に普及していくことになる。

もうひとつ、1964年のオリンピックを機にひろまったものとして知られるのが警備業だ。都や大会委員会、警察では必要とされた数百人規模の警備人員を用意できず、人員確保と警備実施を民間警備会社へ依頼することとなった。採用された警備員たちは選手村建設現場などの警備に活躍。警備業はそれまで守衛と呼ばれ夜間や不在時の留守番として見られることが多かったが、1964年のオリンピックでは施設や会場の警備にあたる姿に多くの人が認識を改め、イメージも一新。大会運営への寄与が認められ、全国に普及したという。

2020年のオリンピックでも、さまざまなレガシーが生まれると言われている。ここで取り上げる「オフィス」もそのひとつだ。

オリンピック期間中、都内の道路は渋滞量が2倍ちかくに増加すると試算されている。公共交通機関の利用者も、10~20%ほど増えるといわれている。何らかの対策を講じなければ、オリンピック期間中の都内は「どこも混んでいる」ことになり、日常生活ばかりか大会の運営にも支障をきたすと懸念されている。

この混雑を緩和する有効策のひとつとして力が入れられているのが、テレワークの推進だ。オリンピックの期間中はなるべく出社せず、テレワークを活用することで混雑緩和につなげようという構想で、都などでは企業に協力を要請している。実証実験の結果もおおむね好評で、参加した従業員の評判も上々という。

とはいえ、自宅で働くのにも一定の環境整備は必要だ。実証実験では、生活空間では集中できない、はかどらないという声もあったという。勤怠管理や連絡体制の構築なども含め、企業側も体制を整えなければならない点が多くある。

そこで注目を浴びはじめたのが、サテライトオフィスやシェアオフィスなどのワークスペースだ。都心の会社へは出社せず、家から近いワークスペースで仕事をするのである。費用も企業が支払い、そこでの業務は出社と同様に認められというもので、大手デベロッパーをはじめ不動産関連各社はこぞってワークスペースの整備をすすめている。不動産市場では、ひとつのビジネスチャンスとしてとらえられているのである。

さてこのワークスペース。利用者は通勤時間が減り、交通当局は混雑が緩和されるというメリットがある。しかし企業にとっては、費用がかかるうえにコミュニケーションがとりにくくなるというデメリットがまず浮かんでしまう。

2020年のオリンピックでワークスペースが定着すれば、まちがいなくオフィス改革につながる。テレワークがオリンピックのレガシーとなるためには、企業が求めるような業務効率化や生産性向上を提供できるか否かがカギとなるだろう。

 

久保純一 2019.8.20