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富士物流▼センター訪問・RFIDの一括読み取りを最大限に利用し効率化 

2010年11月04日

 在庫管理や入出庫の検品などに役立つRFID(無線ICタグ)。しかし、タグの値段や、読み取り精度の問題で、いまだに、実践配備は進まない。その中で、富士物流(本社・東京、小林道男社長)は、RFIDの読み取りロボットを開発。実際に新東京物流センター(江東区辰巳)に配備し、文書トランクの棚卸時間を1/10まで削減し、効果を発揮している。
 また、ロボットだけでなく、ハンディタイプで読み取る方法も活用(中部支社案件)し、こちらでも棚卸時間を1/7に削減。その成功は、RFIDの特長である一括読み取りを最大限に活用し、読み取りの不確実性を運用でカバーしたところにある。
新東京物流センター
RFIDロボットが活躍する富士物流の新東京物流センター
技術と運用でできることを明確にしたのがポイント
 「RFIDの読み取り精度の問題をどうするのか?」
 「タグの値段が高い」
 「コストは誰が持つのか?」
 RFIDと言って出てくる3大問題点だ。これをクリアしないとRFIDの利用は進まないと考えられている。それを富士物流はクリアにしてきた。開発を担当する首藤晴生開発部長は「技術で対応できるところと、運用で対応できるところを明確にした。100%にこだわって動かないのでは、いつまでたっても今のまま。最終結果は、業務の効率化やコスト削減。RFIDへの投資を吸収できるだけの効率化が目指せるなら、100%でなくても動いた方が次の展開がある」という。
首藤さん
「読み取り率が100%でなくても、運用を考えれば、棚卸時間を大幅に削減できる」とロボット開発に携わった首藤晴夫部長
 富士物流が考えたのは、RFIDの“一括読み取り”という武器を最大限に活用すること。そうすれば、読み取り不備を運用でカバーする作業が発生しても、業務の効率化が図れるのではないかと積極策をとった。
 たとえば、1000ケースの荷物を一括読み取りして、999ケースまで読み取れた場合(読み取り精度99.9%)、1000ケースから読み取れなかった1ケースを探すのは容易ではない。普通なら、ここでRFIDの導入を断念する。
富士物流は「それなら、100ケースを10回行うことを考えればいい。100ケースから読み取れなかった1ケースを探すのは楽。残りの900ケースは一括読み取りで大幅に時間を短縮できている」(首藤部長)と考えた。
 実際にこの積極策は功を奏し、棚卸時間は、最大で1/10に短縮できた。「物流で、棚卸は時間が掛かる作業。読み取り率が100%でなくても、技術と運用をあわせれば、大幅に短縮できるということを実証できたのは大きい」(同)という。
 
RFIDロボットの開発は、逆転の発想から
 従来、タグの読み取りは、ゲートにアンテナを複数取り付け、ゲート下でタグを貼り付けた荷物を回転させたり、何度かゲートを通したりする方法がとられてきた。読み取り精度の不備は、アンテナとタグの方向(角度)と距離にあるからだ。
 しかし、富士物流の考えは逆だった。「棚にタグを貼り付けた荷物を並べ、その前面でアンテナをかざして動かせば棚卸ができるのでは…」。“アンテナを動かしてタグを読み取る”逆転の発想でロボット開発がスタートした。実際にロボットを作成し、2年前に作成した試作品から実用ロボットを完成させた。
RFIDロボット
棚に整然と詰まれた段ボール。こんな保管であれば、RFIDロボット(右手前)は威力を発揮する
 「“工場で、物を動かすことはムダ。マテハンの極意は動かさないこと”と教わり仕事をしてきた。それを象徴している。」(首藤部長)とロボット開発を振り返る。アンテナを動かすことで、タグとの方向(角度)と距離は動き、読み取れるものになる。
 荷物を動かさなくていいので、棚卸・在庫管理に力を発揮する。従来、フォークリフトで荷物をおろしていた棚の最上段にある荷物も、アンテナが棚の最上段まで届くので、動かさなくても確認ができる。
 倉庫では棚のレイアウトが変わることがあるため、無軌道制御という方法をとる。よく工場などで床に磁気テープ等を引き、その上をロボットが通るが、無軌道制御は、その磁気テープ等を引く必要がない。倉庫のレイアウトが変わっても、磁気テープ等を引きなおすという手間がいらない。ロボットに倉庫のレイアウトを記録させれば、自動で保管荷物を読み取ってくれる。
 休憩時間や夜間などにロボットを動かせば、棚卸がすんでしまうという状況を作り出せる。
700ケースの棚卸が15分で
 実際にロボットを動かしているところを見せてもらった。富士物流の辰巳倉庫。文書保管をしている。倉庫に入ると、整然とパレットの上に文書保管の段ボールが並んでいる。棚は3段。一番上の棚は、見上げる高さだ。従来であれば、リストと表示を一つ一つ確認していた。最上段の棚は、フォークでパレットを下ろし、確認。またフォークで戻さなければいけなかった。
棚写真
最上段の荷物の棚卸も楽々
 RFID棚卸ロボットを作動させる。すでに入っているレイアウトから、どの棚を読み取るかを設定。棚の前まで動いてくる。読み取る前に棚の柱の位置を確認。棚に水平に動けるように、ロボット自身が判断し、向きを微調整する。
 読み取りを開始すると、PCに読み取った情報が一覧で出てくる。一回の電波の発信で10~20のタグを読み取っていく。棚の端まで来ると、アンテナの高さを変えて、また読み取りを開始する。数往復で、棚1段分の読み取りが完了する。読み取り後に在庫管理システムの情報と照らし合わせ、保管場所に間違いがないか?間違いがある場合は、どの程度(距離)の違いがあるのかを表示する。700ケースの棚卸をものの15分程度で完了した。
 
結果写真
棚卸結果の画面。◎と○はOK、×は商品位置がデータの位置と異なる。どのくらいのズレがあるかも出てくるので、荷物を正常なところに移動することができる。
タグの値段は高い
 RFIDのタグは安くなったといっても1つ20数円する。そのため、1回読み取って捨てるような場合には使えない。今回のように、荷物の出庫がほとんどない文書保管であれば、在庫管理にRFIDは有効に活用できる。
 また、富士物流は、イベント会場で使用される情報機器の保管、入出庫も手がけている。従来、機器が戻ってくるたびに、個数・種類と破損の有無の確認が必要だった。それを、個々のアイテムにRFIDを取り付け、一括読み取りによる検品作業を行っている。特に、出荷した機器が戻ってきた(再入庫)際には、破損の有無を確認している間に、戻ってきた機器のデータを読み取ってくれる。登録データと自動で照らし合わせるので、作業時間の短縮に役立っている。
 顧客への提案に成功した事例もある。
百貨店のようにフロアーごとにレジがある店舗ビル。その店舗ビルでは、各フロアー、複数の売り場で購入された商品を一括してお客様の指定の場所に配送するサービスを行っている。従来であれば、手集計された一覧表を基に、各フロアーから送り込まれた荷物を探しながら届け先ごとに仕分け、梱包していた。梱包のミスが発生しやすい状況だった。
 これをレジで発送情報を入力するシステムを構築。手集計からデータ化に変更し、RFIDを利用できる環境を整えた。発送荷物の回収には「後工程引き取り」(トヨタ生産方式)の“かんばん”発行方式とした。“かんばん”には何度も表示書き換えが可能なリライタブルシートを採用し、ICタグを内蔵。ICタグ付きのかんばんを再利用できるようにした。ICタグとかんばんを併用できることで、複雑な仕分け作業を効率化。梱包状況は、RFIDを使って一括読み取りでき、ミスを防いでいる。
 富士物流がRFIDを活用し、成功したのは、タグを再利用できる形式(一時貸し出し商品の管理や構内作業のみに利用)、長期保管の貨物など、ICタグを何度も利用できる状況で使っているからだ。また、運用でカバーできる程度のボリュームを一括読み取りする状況にしているからだ。
 首藤開発部長は「RFIDの一括読み取りというメリットを発揮できる場所には有効。メーカーの工場から店舗までをRFIDで一括管理すれば、工場、倉庫、店舗での入出庫検品がそれぞれ効率化できる。現在のタグの価格でも充分にコストを回収できる可能性はある。読み取り精度が100%でなくても有効に利用できることは、富士物流で実証できた」とした。