物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
最新ニュース・情報を発信しています。

  • メール会員情報変更
  • メールマガジンバックナンバー
  • ニュースメール配信登録

減築という解決策 

人口が減れば必要とされるものも減っていく。ごく当たり前の理論だが、相変わらず大規模ビルやマンションの新築が続いている。このままでは競争は激化する一方、既築物件の競争力は低下する一方だ。残念ながら、今日の日本の不動産市場では新築に対抗できるのは新築だけなのである。だからといって建て替えるのはコストがかかる。そこで検討したいのが、減築だ。

減築とは建物を改修して規模を縮小するもので、一戸建て住宅なら2階建の5LDKを平屋の2LDKに、ビルなら10階建てを5階建にと小さくする手法をいう。ミニマムとかダウンサイジングという言葉が一般化して久しいが、減築も発想は同じ。建物の無駄を省いて必要なサイズにしよう、という概念だ。建物を小さくすることで、耐震性の向上や空調効率、採光性、通風性の向上による光熱費の削減、固定資産税の削減、さらにニーズに合った物件構築による収益力向上も見込める。しかも費用は新築より安いときている。日本では、建物の耐震性や人口減がクローズアップされてきた2011年ごろから注目を集めるようになってきた。

有名な減築の例では、団体客の減少によって稼働率低下に悩んでいた某温泉ホテルが挙げられる。14階建てを4階建てに減築し、客室もそれまでの団体客向けから家族客向けにリニューアル。入浴施設も刷新した結果、客単価が上がって経営状態も向上したという。

他に知られているのは、山陽本線の某駅の例。地上8階建の駅ビルにはホテルや店舗が入居していたが、観光客の減少や建物の老朽化で施設の維持が難しくなっていたという。そこで建物を2階建に減築して新たに商業ゾーンを設置。集客力を取り戻した。

いずれもホテルの例だが、外国人観光客の増加とホテル建築ラッシュのさなかにある今日の目から見れば疑問に感じるかもしれない。しかしここで注目したいのは、減築によって見込まれる収益力の向上だ。前述の温泉ホテルでは稼働率、宿泊費がともにアップし、日帰り入浴の利用客も増加した。しかも減築の費用は新築した場合の10分の1という。減築に踏み切ったのは、売上高の減少よりも利益率の向上を選択した結果なのである。

耐震性の向上という観点でいえば、倉庫の減築の例もある。昭和43年完成の「東京国税局大崎倉庫」がそれだ。もと7階建のこの建物は、1~3階が倉庫、4~7階が宿舎として利用されていた。しかし老朽化もすすみ、耐震も旧基準。住宅事情や勤務形態が変わって宿舎も不要になりつつあった。そこで4階以上を取り壊し、3階建ての倉庫として生まれ変わらせたのである。

とはいえこれらはメリットが見込まれたから減築を選択したのであって、なかでも温泉ホテルなどは最もうまくいった例のひとつだ。既築の建物に同じものがないように、減築もすべてケースバイケース。どの建物でもこんな大きな効果がでるとは限らない。だが古くて大きすぎて耐震性が低い建物を持て余すより、時代のニーズに合った建物に生まれ変わらせる方が益が大きいのは確かである。新築する余力がないのであれば、減築という選択肢に光が当たるのも当然といえるだろう。

耐震性や空室、老朽化に悩む倉庫オーナーのみなさん。建て替えを検討される際は、ちょっと立ち止まって減築について考えてみてはどうでしょう。

 

久保純一 2017.11.05