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朽ちる美しさ、使われる美しさ 

アルベルト・シュペーアという建築家がいた。ある種の人々にとっては忌まわしい記憶を呼び起こさせる名前かもしれない。彼はヒトラーお気に入りの建築家であり、いわゆるナチス様式の建築物を多く手掛けた人物であるからだ。しかも大戦中はドイツの軍需相を務め、多くの政策にも関わっている。しかしその一方で彼は当時からナチスドイツの非人道的行為に批判的とされており、ニュルンベルク裁判でも自身の戦争犯罪関与を認め、ナチスに不利な証言さえしている。が、その人物像について論じるつもりはない。触れたかったのは、彼が提唱した「廃墟価値の理論」だ。

この理論は、建物とは数千年先の未来、廃墟となってなお美しさを感じさせなければならないというもの。古代ギリシャやローマの遺構が美しさを感じさせるのは、朽ちた建築材とふたたび繁茂する自然との調和があるからだろう。その壮大な姿に、建築者の偉大な能力を感じるからだろう。彼らはここで何を行い、何を考え、何を成し遂げようとしていたのか。美しい廃墟とは建物が生きていたころを夢想させるような、感興を誘うものでなくてはならないという理論である。

シュペーアが請け負ったナチス様式の建造物に石材が多く使われているのも、この理論が理由といわれている。確かに、石材は後世まで残る。しかし、今日の建物が壮大な廃墟となって後世にその美を伝えるのは容易ではない。今日では、建物を取り壊す際はあらかじめ再生の意図をもって破却される場合がほとんどで、建材は廃棄物として処理されるか、使えるものはリサイクルされる。無駄を省く精神は、廃墟の存在を許さないのである。そして廃墟化するのは住む人のなくなった空き家ばかり。そこに美しさがあるか否かはともかく、時の為政者や優れた建築家の作品が廃墟となってなお残り続けた時代は終わったのかもしれない。現代文明が一瞬のうちに滅べば話は別だが。

倉庫も、建物が残り続けることは少ない。後世に伝えるべきものを収蔵しているといったような重要な役割をもっていればその限りではないが、それは倉庫の存在がその機能性の維持と密接にかかわっているからだろう。倉庫はいうまでもなく、ものの保管という機能に特化した建物だ。ある目的を果たすために建てられた建物がその目的を果たせなくなったとき、建物の役割は終わる。倉庫として使われなくなった倉庫は、もはや倉庫とは呼べない。

倉庫には、機能を優先した建物だからこそあらわれる美しさがある。その構造や意匠には建築家の、あるいは施主の意思が色濃く反映されている。それが倉庫の機能美だ。そして機能美は、その機能が充分に発揮されている瞬間にもっとも強く発現する。倉庫の機能美は、倉庫として使われているときにこそあらわれるのだ。数百年、数千年を経てなお倉庫としての役割を果たし続ける正倉院などはその典型ではないだろうか。

朽ちたものに美しさがあるように、使い続けられるものにも美しさがある。そして倉庫における美しさの神髄は、後者だろう。正倉院ではないけれど、いま目にしている倉庫が数千年も倉庫として残る。そんな妄想で明けた2018年です。

 

久保純一 2018.01.05