物流不動産ニュース

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余っているのに足りないもの 

先日、絵画や陶芸の制作活動を続ける造形作家の個展に合わせたギャラリートークを聴講した。会場は10人も入れば満杯になる小さなギャラリーで、文字通り膝突き合わせてトークするという趣向。そこで話題に上ったのが、活動場所を探すのが大変という悩みだ。

絵にせよ造形にせよ、アトリエは絶対に必要だ。画材や粘土の保管場所もいるし、陶芸であれば釜もいる。この作家氏の住宅とアトリエは都内だが、著名な美術館や画廊で個展を開くような彼でもその維持は容易ではないという。

もうひとつが、作品の収蔵庫。氏は筆が速く、時間があればどんどん描いていくタイプという。自宅やアトリエは、すぐに作品で埋まってしまう。そこで自宅から車で2時間かかる田舎の一軒家を借り作品を保管しているのだが、その家賃を聞いて驚いた。都内の倉庫なら1坪の値段なのである。

もちろん空調はないし、普通の戸建て住宅だから収蔵品の出し入れもし難い。作品の劣化という観点でも、決して最良の保管場所とは言えない。家賃にしても、好意で貸していただいているがゆえの価格であることも理解できる。

この収蔵庫の話題がでた際、参加者から「まわりに空き家がこんなにあるのに」という声が出た。筆者は「確かに家は余っている。しかしマッチングする仕組みが無い」と応じた。実際には、無いわけではない。空き家や空きスペースのマッチング事業を行う企業は数多あるし、空き家対策や空室活用という言葉は、すでに陳腐化するほど浸透しきっている。

昨今のマッチングの仕組みは、「空き家の使い方を思いつく人」に向けたものが多いように思う。ニーズの掘り起こしも物件の発掘も、ユーザーまかせの部分が多い。筆者は「無い」と言ったあと、そうした現状を簡単に説明した。「正確に言えば『無い』わけではないが、ニーズをひろいきれておらず、訴求も足りない」と。

この作家氏は障害をもっており、コミュニケーションや感情表現がうまくいかないことが多いという。作家という肩書を置き、障害をもつ個人という立場でいえば、将来への不安は計り知れないものがある。作家活動のマネージャーも務めるご母堂が、その思いを淡々と語る姿が印象的だった。

余ってるはずなんですけれどね。

 

久保純一 2019.9.20