物流不動産ニュース

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CRE戦略における分析手法 − 第9回 CRE戦略と物流不動産

 企業不動産の評価作業について、従来の手法から比較してゆきましょう。管財的な不動産管理という従来の手法は、端的に言って「場当たり的な手法」とも言えるでしょう。工場や物流施設、営業所や事業に必要な不動産建物の取得および賃貸借契約の締結では、利用する当事者部門の責任者と総務経理の担当者が、売買価格や賃借条件についての比較検討作業を進めます。その際何よりも重視してきたのが、<近隣同様施設との条件比較>であったはずです。金融機関や不動産仲介業者の提供するファクトシート(物件説明資料)を眺めて、「損か得か、高いか安いか」というお買い物レベルの比較であって、<その不動産によってもたらされる、キャッシュフロー計算ではなかった>ようです。

 特に生産や物流という、販売計画に連動した企業戦略との関係性を真に検討してきたかと言えば、疑問の残る意思決定であったことは否めません。

 本来、不動産投資における意思決定とは長期的な事業収支への影響すなわち、キャッシュフローの試算であるはずで、当期の投資計画との単純比較や相場観との整合性ではないはずなのに、ということです。

 不動産投資における最重要課題は、投資を伴うライフサイクルコストマネジメント(不動産の取得~運用~終了時期での処分まで)でなければなりません。つまり、売買や賃貸借という交渉条件ばかりでなく、運用や最終除却や処分までの生涯コストと事業収支への影響分析でなければならないのです。

 不動産のうち土地は減価償却の対象ではありません。資産価値はそこでなされる事業収支そのものに関わっているのであり、交渉条件で話題になるような「高い、安い、得か損か」という視点以上に、事業の長期的な収支レベルまで検討しなくてはならないものです。

 特に物流施設の場合には、近隣の都市計画、道路情勢、人口動態などの物流に重要な要素の長期的な検討が欠かせません。それらを踏まえての検討であるなら、管財的な管理視点よりも中長期の営業戦略や事業計画の裏づけとなるか否かの視点が何より重要なはずです。

 CRE戦略における不動産の分析手法では、このような長期的なレンジにおけるライフサイクルコストマネジメントの収支シミュレーションがもっとも重要視されなければならないのです。

 管財的視点に則った不動産取引とCRE戦略志向に基づく取引とでは、視野の時間的幅がまったく異なっていることにまずは注目すべきでしょう。「得か損か、よりも必要か適切か」という経営戦略志向が欠かせないと言えるでしょう。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)