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株式会社EMPIRE 代表取締役 北川大輔 ― 挑戦者に聞く 第6回(後篇) 

【対談】過去を断ち切る前に進む大切さ

株式会社EMPIRE 代表取締役 北川大輔
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株式会社イーソーコドットコム 代表取締役 早﨑幸太郎

 

 

(前篇からつづく)

 

 

ブルーオーシャンで戦え

 

早崎:我々は物流不動産というビジネスを進めており、これは物流と不動産というふたつの業界をベースとして成り立っています。どちらもレッドオーシャン化されつつあるのですが、ところがこれを単純にひとつにした「倉庫の不動産」という分野はブルーオーシャンなのです。ただしこれを進めていくプレーヤーには物流と不動産、双方のスキルが必要で、これができる人材は多くありません。
物流といっても倉庫を持っている業者ならある程度不動産のスキルもありますが、それを活かすとなるとなかなか理解されにくい。不動産やさんも倉庫の価値には気付きはじめてはいるものの、物流の知識がないためにどう貸していいのかわからない。物流不動産ビジネスもさまざまな業界から注目されてはいるのですが、専門プレーヤーの育成が課題になっています。ITも需要は常にあるものの、今後は専門的なスキルがなくては生き残れなくなりつつある気がします。

北川:私もそのように考えています。IT業界というのはまずスタッフを集めて、その能力でどれだけのシステムを作ることができるのかという考え方で成り立っています。テクノロジードリブンの考え方で、新しい技術の登場とともに新しい部署を立ち上げて、その技術をさらにブラッシュアップしたものを創っていく。それができていない気がしています。これができればまだまだ面白い業界だとは思うのですが。
例えば御社にも基幹となるコンピュータシステムがあると思いますが、これが25年前のまま更新していなかったらどうなるでしょう。ビジネスにおいて、必ず同業他社に差をつけられます。同じ業界で同じ仕事をしているのに、利益率や業務の最適化、コストなどで差がついてしまう。新しい技術に追いつけずにいることで、ディスアドバンテージが発生してしまうのです。でもこれは、なかなか気づくことができない場合が多い。
あらゆるビジネスはIT技術を巻き込んで進んでいると思います。ビジネスの現状とIT技術とのギャップを見つけて改善するという仕事は、今後も必要とされ続けるのではないか、そういう意味で、ITにも専門性を持たせることでブルーオーシャン化できると考えています。

早崎:ITについていえば、物流業界は遅れているといわれていました。預かっている荷物に何事もないのが当たり前で何かあったら叱責されるという業務ですから、減点主義というか、新しいことをやりたがらない保守性が強い。結果としてITの導入も遅れます。荷物を預かるには保守性は大事ですが、ビジネスにおいては悪くでることが多いようです。
よく「ゆでガエル理論」といいますが、現状に危機感を抱かないままデッドラインを超えてしまうことがよくあります。現に物流が儲からなくなったのもそれが一因といわれています。何もしないことが良いことだといわれて何もしなかった結果、業界全体が停滞してしまったというかたちです。

北川:物流業界の動きは興味深いですね。実は私も物流のシステムを創ったことがあるのですが、確かに保守性というか、何もしないことが良いことという価値観があるようです。しかしその結果、業界のレッドオーシャン化がすすんでしまう。物流業界に限ったことではありませんが、ブルーオーシャンにするには業界全体を考える必要がありますね。

 

 

なぜ人も金もアマゾンに流れるのか

 

早崎:北川さんは、常に新しいモノを探して、しかもそれを見つけて来られました。常に挑戦されて、戦っている。そして、だれも知らないようなモノを創り出していく。そうして培ったものを使って、例えば世の中を変えたいとか、そんな思いはおありですか。

北川:技術者が優遇されていないなと感じます。特に企業のIT分野を担う方々は華やかさもないし、一発当たって億万長者に、という世界でもありません。仕事にずっと引きずられて人間らしい生活ができなかったり、残業をしないと評価が上がらなかったり。いわばワークライフバランスですが、こうした働き方も含めた企業体質が根本から間違っていると思います。
我々は、我々のサービスに対する評価としての料金をお支払いただいていると考えています。金額のベースは作業時間ではありません。コンサルティング業務も何カ月でいくらというものではなく、成果への対価をお支払ください、というスタンスです。そのなかで、技術者が自分の技術分野においての価値を認められ、かつ外部に向かっても宣伝できるような形になればと考えています。

早崎:IT業界では、作業時間がそのまま成果物の価格だったり、コンサルティング業務も内容ではなく契約期間で価格が決まったりしてきました。でもそうではない、もっと価値や内容を見てほしいと。

北川:そういうことです。その結果、スタッフの生活が良くなればいうことはありません。そういう企業には自然と人材も集まってくるように思います。結果として、企業としてよりよい状態を維持できます。

早崎:学生の就職状況が好転しつつありますが、物流業界には無縁のようです。人材があまり来ず、多くの物流会社が困っています。物流の魅力や倉庫の格好よさの発信も私の仕事のひとつなのですが、実際にはそれだけではなかなか集まりません。インターンシップなどを通じて学生と接する機会も多いのですが、物流に対するしっかりとしたイメージを持っている学生はほとんどいないのが現状です。
物流会社からイーソーコグループに寄せられる相談でも、人材関連がとても多いのです。学生に物流と言っても響きません。ところがアマゾンというとほとんどの人は想像できます。アマゾンなら就職したいという学生は大勢いるでしょう。でも物流会社にそんな話をしても、あまりピンと来ない。自分たちとは別の世界の話のようなのです。

北川:アマゾンは物流の効率化にITを活用した、ひじょうに先鋭化した集団だと思います。彼らが短期間にここまで大きくなっていったのは、デジタル技術をつかったのもひとつの理由でしょう。書籍販売からはじめましたが、当時の倉庫は日本にある大手書店とかわらない規模でした。そこからさまざまなジャンルに広げていって、今があります。より便利なもの、より面白いもの、より利益がでるものを追求していくことができるか否か。そしてそこに、適切な技術があるか否か。そこがアマゾンと他の会社との分岐点です。結果として、アマゾンは世界の物流を変えました。イノベーションは外からもたらされるというのはほんとうです。

 

 

 

イノベーションをもたらすのは、必ず新しいもの

 

北川:日本の倉庫会社は新しいものに挑戦しない会社が多いということですが、新旧事業の親和性が悪いからといってあきらめてしまうか、おもしろそうだからやってみようと先に手を出すか。そこが大きな転換点なのではないかと思います。イーソーコさんだって、攻めの姿勢があって今があるのではないでしょうか。

早崎:イーソーコグループは倉庫の空室情報提供サービスからはじまったのですが、当時倉庫は荷物を預かる場所であって貸す場所ではなかったのです。倉庫が空いているという情報が外部にでるのは恥だという時代です。現在イーソーコグループの会長を務める大谷巌一は逆を突き、空いている倉庫の情報をださないことには荷物も集まらないし世の中は便利にならないと考え、倉庫の空室情報発信サイトを立ち上げました。既存の倉庫業界ではタブーともされた概念を、IT技術を使って実現したわけです。まだインターネット環境も整わないころにこういったサイトを立ち上げていたというのは、現在日本で一番多くの倉庫物件情報を集められている大きな理由だと思います。
ただ、一般的な倉庫屋さんではこうしたサイトはできなかったというのも確かです。倉庫業者がやってしまうとライバルである同業他社の情報を集めることになるので警戒されてしまいますし。こうした経験がありますので、イノベーションは業界の外からもたらされるという考えには賛成できます。さまざまなイノベーションを起こしてこられた北川さんの目から見て、今後の物流業界にイノベーションを起こせるとしたらどんな部分でしょうか。

北川:物流のプロではないので難しいですが、おそらくまだ物流業界で取り入れられていない部分といえば、いわゆるインデックスでしょうか。モノを運ぶ際や倉庫中でのピッキングの際、そのインデックスはおそらく経験や統計学に基づいた優先順位になっていると思います。次にどこに届ければいいのか、次に何をピッキングすればいいのか、これをあらかじめ予測できるアルゴリズムを使えば、より効率的なインデックスが作成できます。単なる推論ではなく、検証と実践を繰り返して常に精度を高めていくシステムです。これをサービスを受ける側に提供できるようになれば、新たな価値が生まれます。
また、例えば物流施設内をゾーニングするとき、ニーズがある製品を取り出しやすい場所に、あまりニーズのない製品は奥の方に置くと思います。その判断を適正なアルゴリズムに任せれば、より効率を高められるわけです。

早崎:判断を、一種のAIに委ねるわけですね。最近AIや自動化が話題になってきて、物流への導入もはじまりつつあります。しかし本質は、それに気付くことができ、採用する柔軟性があることが重要です。
例えば最初に倉庫の格好よさに気付きそれを実践していた人たちは、マイノリティだったと思うのです。アーティストとかクリエイターと呼ばれる人たちです。彼らの格よさが認知されてくると、彼らがいる場所も格好いいという認識がでてきて、やがて倉庫街の価値が上がっていきます。すると今度は大きな資本がその価値に目をつけて、最初にいた人たちはいられなくなってしまう。今すぐ認められなくても、最初に先鋭的なことをやっていた人たちがいたからこそその「恰好よさ」が生まれたわけです。
AIなど、新しい技術の拡散にも同じことがいえる気がします。最初に誰かが気付き、それが有用だと認識されて、価値が認められる。そしてはじめて普及すると思います。

 

 

 

AIは物流をどう変えるか

 

北川:さまざまな分野へのAI導入が期待されており、物流でも同様です。しかし大きな導入効果があるとされていながら技術的に難しいのが、いわゆる経路系とよばれる分野です。倉庫内の導線などで最適な経路を導き出すというものなのですが、現状では人間の経験や直観にかないません。配達や集荷も同様で、荷物を受け取ってから届けるまで、どの道路で行ったら効率的かを考える分野です。

早崎:カーナビとはまた別の技術なのですか。

北川:まったく別というわけではないのですが、距離や渋滞、信号、工事、それに時間帯や配達順といったあらゆる条件をすべて考慮に入れたうえでよりよい経路を導き出すというのは、実は簡単ではないのです。最適に近いものは比較的早く実用化できるとは思いますが。

早崎:いずれ普及すれば、倉庫内でも路上でも、より効率的になる。

北川:そうなのですが、自動運転の実用化が難しいのは、この経路の最適化が難しいという面もあります。いずれにしても、実用化はまだ先になりそうです。

 

 

 

進むことは過去にとらわれないこと

 

早崎:これから挑戦していきたいことなどはおありですか。

北川:いつも言っているのは、技術のフロントラインを推し進めることです。それも独りよがりではなく、ビジネスとして成立しつつ、まわりの人たちが技術をさらに進めていけるような形でやってけたらと考えています。そしてそれが評価されるように、進んでいきたいですね。

早崎:チャレンジするうえで大切にしていることは。

北川:例えばネガティブなことが発生したとき。発生したことにとらわれて、大変だ、挫けそうだ、ではなく、今なにをすべきかを考える。過去と現在を同じに考えるのではなく、過去は過去、起こったことは起こったこととして、その上で自分が正しいと思う方向を見定めて切り捨てていく。それが一番重要なのではないでしょうか。
自分のしたことに後悔するよりも、まず前に進む。前に進み続けることで、自然と過去のことに後悔しなくなっていきます。何より、前に進み続けたいですね。

 

 

 

 

 

 

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