物流不動産ニュース

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新しいモノ偏重主義からの脱却 - 114 

国立競技場の建て替えにかかる費用が、当初予定額の倍近くにまで膨らむ見込みという。新しい競技場の設計は斬新だし、人目も引く。きっと世界に誇れる建物になるだろうとは思う。しかしそのために必要な費用が3000億円近だというのだ。見積もりの杜撰さもさることながら、世論は建て替える意味、ひいては新競技場の存在意義そのものを問うまでに沸騰しつつある。しかし新競技場が旧国立競技場より価値があり、かつ3000億円の費用に見合うものならばこんな議論は起きないはずなのだ。

建物の価値に普遍性を見出すことは難しい。立場や文化が異なれば評価基準も異なるし、そもそも誰もが「良い」と認める不動の評価を得ている建物など、世の中には数えるほどしかないのだ。ところが、日本では割と簡単に建物の評価が決まってきた。なぜかといえば、日本には「新しいモノの方が偉い」という伝統的な評価基準があるからである。スペックが同等なら新築ビルに入居している方がエライし、同じ間取りなら新築のマンションを買った方がエライのだ。

だが世界的にみると、「古い建物も格好いい」という価値観を持つ文化がけっこう多いことに気づく。歴史的評価が定まっている建物はもちろんだが、それほどではなくても現代とは違った価値観にもとづく意匠や構造をもった建物は、レトロやビンテージ、あるいはシャビーといった概念で表現され、場合によっては新築より高額な家賃だったりするのである。日本においても、ちょっと古い建物をリノベーションして活かすことがようやく一般化してきている。国立競技場の建て替えが話題となっている理由も、金額の大きさはもっともとして、「古いモノを大事に使うのが格好いい」という価値観が拡がりつつあることの表れだとしたら嬉しいのだが。

もちろん新築には新築の格好よさがあるし、機能面では築古建築は到底かなわない。しかし現在では再現不可能な加工や部材、建具などはそれ自体に価値を見出すことができるし、何よりも築年数を経て歴史を積み重ねてきた建物が醸し出す雰囲気は、新築には絶対にマネできない。もちろん倉庫も同様なのだが、その魅力を最大限に発揮させるためには意識転換が必要だ。倉庫を倉庫として貸しているかぎり、新築倉庫との競合は永遠に続く。そこで必要なのが、モノの保管や加工といった物流用途だけではなく、新たなニーズに対応できる柔軟性。法的な制限はあるが、実際に倉庫をどう使うかはアイディア次第だ。築年数が経過した倉庫をお持ちの皆さん、本当に面白くなるのはこれからです。

(久保純一)2015.07.20