物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
最新ニュース・情報を発信しています。

  • メール会員情報変更
  • メールマガジンバックナンバー
  • ニュースメール配信登録

<レポート>JA-LPA セミナー、近未来の「物流不動産とテクノロジー」 第2弾 

日本物流不動産評価機構推進協議会(JA-LPA)は10月19日、日本通運本社で第12回セミナー「物流不動産とテクノロジー」を開催、約200人が来場した。
第1弾はコチラから。

基調講演で国土交通省の多田浩人大臣官房参事官は、物流総合効率化法について、導入事例を紹介。日本政策投資銀行・企業金融第 3 部 グローバルロジスティクス室の須釜洋介室長は金融面から見た物流、物流マーケットを言及。「次世代物流施設では、用途・目的に応じたテクノロジーの導入が想定される」と須釜氏は述べた。

第2部での3題の講演では、須釜氏が予測したテクノロジーで変わる物流不動産未来予想図が発表された。

イーソーコ・大谷巌一会長は冒頭、「シーオス・松島氏と日建設計・佐竹氏の両氏が近未来の物流が発表されるが、聞けば聞くほど怖くなる。私は露払いの立場から、物流業界を取り巻く現状をご紹介したい」と述べた。

同社の推進する物流不動産ビジネスは物流施設を基軸にした、物流業と不動産業の総合営
業だ。倉庫は立方メートルを基準に保管効率を重視するのに対し、不動産業では平方メートルを基準に賃貸面積を重視する点。ターゲットにしていた顧客対象とともに、営業種目も大幅に拡大することで振り幅が大きい。

物流不動産ビジネスが核とする物流業はあらゆる産業に関りが深いことから、「イノベーションは起こしやすい環境にある」(同)として、会場の大半を占める物流業者たちにイノベーションを起こせる可能性を説いた。

イノベーションは物流コストと深く関係する。通常の物流コストで約50%を占めるのは運送コストだ。その60%は人件費が占め、総物流コストに占める倉庫賃料の割合は全体の7%程度しかないという。その上で大谷氏は、点在する物流施設の集約化で派生する削減額を試算した。

賃貸面積 19300m2(5840 坪)、賃料の坪単価 5000 円の場合、月間411万円、年間5000万円のコスト削減となることを明かした。「荷主にとって5000万円のコスト削減は、物流コストを5%と試算すると年間20億円の売上アップと同等だ」と、大谷氏は物流施設集約化による物流コスト削減のメリットを語る。

首都圏の物流施設の配置では、環状 7 号線戦線の「消費立地型」は物流施設の賃貸料金は
高い反面、庫内で従事する人が集まり、ラストワンマイルにも有利と話す。一方で、圏央道沿線を「生産立地型」エリアに位置する物流施設は苦戦している最中だという。物流戦略上、雇用人材確保は大きな鍵となるからだ。

その事例として、三井不動産では駅から徒歩7~8分の大型マンション好適地に物流施設の開発を加速、羽田空港から至近のヤマトクロノゲート隣接地に開発中の案件を発表した。都内消費地に物流施設を配置することで雇用面の大きなアドバンテージが生まれる。大田区平和島周辺では物流施設の建て替えラッシュが進み、2014年から2017年までの開発実績は約9万坪、2018年以降は14万坪の開発が続けられる見込み。

「倉庫、物流センターをターゲットにする物流不動産ビジネスに追い風が来ている。我々 の試算では少なくても2兆円規模の投資先が物流不動産だ。ロボットや3Dプリンタが普及される5年後から10年後には、消費立地型で生産・物流が融合した施設が林立されるだろう。テクノロジーの発達を視野に入れ、未来に布石を打てるかが大切だ」と大谷氏は述べた。

続いて、シーオスの松島聡社長は「社会インフラとしてのロジスティクスをデジタルネットワーク化することで産業に革新を」を講演。同社は、アクセンチュアでロジスティクスの戦略コンサルティング・設計・開発を担ったメンバーが2000年に設立。「第4次産業革命は、1次から3次までの産業革命とは明かにマグニチュードが異なるレベル」と松島氏は語る。

そのキーとなるのがAI制御だ。物流分野では庫内作業をソフトウェアサポート化することが重要として、倉庫内業務、モビリティー制御、在庫制御を行う各システムがリアルタイムでネットワーク化するNeural Networking Logisticsを提唱。インダストリーレベルでの最適化は「あらゆる業種の企業が対象になる」と松島氏は話す。アプリケーションのデジタル化と同時に、連動してロボットが動く。ロボットのセンサーがリアルタイムのデータを集積、それらのビッグデータベースを活用したAIが学習し、機能強化していく好循環サイクルが次世代ロジスティクスのデジタル・トランスフォーメーションだという。

「現在の先進物流施設はマテハン5・人間5で10の仕事を行うようなイメージだが、インダストリー4.0ではマテハン2、ロボット5、人3で10の仕事を行うイメージに変わり、徐々にロボットの割合が増えて人の割合が減っていくことで省人化を実現する。既存のハードウエアを知能化させた『家電型ロボット』により、人との協働が主流となる」と、松島氏は今後の庫内省人化の方向性を示した。

ロボットを制御するのはAI。ロジスティクス領域におけるAIの重要技術は主に4つ。(1)3DSLAM化による自律移動、(2)IoTとディープラーニングによる物流リソースリアルタイム・デジタル・見える化、(3)画像認識におけるハードウエア制御、(4)マシーンラーニングによる複数ロボット制御。

同社が最初に手がけるロボットによる省人化領域は人が重たいものを動かす領域=荷役だ。「カゴ車や6輪台車やハンドフォークなどで人が構内をけん引する作業、人による運転でフォークリフトがパレットを動かす作業を省人化する」と語る。その事例として、同社は物流展のトヨタL&Fブースの「3DSLAM式 KEYCART」の出展を行ったことや、トヨタL&Fカスタマーズセンター大阪でも展示している。従来のAGVでは磁気テープを床に貼り。プログラミングする必要があったが、SLAM KEYCARTではタブレットへのタッチ動作の指示で走行ルートの指示を行うことができる。

「自分の手足として操作している感覚、正に家電感覚に近い」

松島氏は倉庫管理システム(WMS)の概念も大きく変える挑戦をしている。ロボット、ソフトウェア、マテハンの異なる分野をすべて制御できなければならないためだ。「これにより、倉庫設計は大きく変わり、「ウエアハウジング」は「デジタル・ウェアハウジング・インテグレーション」となり、構築前に3Dシュミレーターにより仮想空間で実装レベル前の検証ができるようになる」と松島氏は展望する。

松島氏によると、AIという言葉は新しいものでなく、「2010年代にディープラーニングの登場によりAIがなければ自動運転が実現できないなどの例がある。この世の中を一変させる技術として脚光を浴び始め、GPUなどのコンピュティングパワーの後押しにより実装レベルの技術とし活用が始まった」と話す。

第1世代のAIは1950年代で現在でも多く活用されているアルゴリズムで、シーオスでは「AI配車」を、第2世代では機械学習で1980年代ビッグデータの解析による将来予測となるが、シーオスは「最適要員配置」を代表的な事例とする。

現在がまさに第3世代となり、ロボット技術に活用しているディープラーニングがロボットを制御する時代が、今始まったと言える。物流の省人化にも欠かせない技術のため、ディープラーニングを使いこなす技術力こそが次世代を支えると言ってもいいだろう。

最後の講演は日建設計の先端系施設デザインラボ デザインパートナーの佐竹一朗氏だ。「インダストリー4.0がもたらす変化の兆しと新たな産業建築」と題し、第4次産業革命が物流施設にもたらす影響を紹介した。

インダストリー4.0ではサイバーのデジタル情報と現実のフィジカルなモノや空間が、リアルタイムで自律的に繋がることで、モノづくりの新たなプラットフォームが構築される。佐竹氏は、工場内稼働状況の可視化や最適化を図る「スマートファクトリー」の事例として、ハーレーダビッドソンとテスラモーターズの事例を紹介した。

ハーレーダビッドソンでは閉鎖の危機にあった工場がフル・デジタル化によって生産性を劇的に向上させ、マス・カスタマイゼーションを実現。またテスラでは買収した工場のライン生産設備を全て撤去し、多機能ロボットによるフレキシブルな生産方式を導入、セルの組み合わせを自在に変えてマス・カスタマイゼーションを実現したという。

「インダストリー4.0ではサプライチェーンはカンバン方式からCPS(Cyber Physical Systems)へと変わり、あらゆるデータはシームレスに繋がり、モノの流動が加速する。物流施設では保管・在庫という概念が希薄となり、製造と物流の境界はなくなる」と、佐竹氏は予測する。

CPSでは、第4次産業革命では従来の垂直統合型から、業種や業界の枠を超えた水平協業型の産業構造に移行することにより、オープンなエコシステムが実現し、新たな価値が創造されるという。

こうした産業構造の地殻変動や物流技術の劇的進化によって、物流施設の今後は、最新の大型物流施設さえも将来選別されるようになり、(1)足の良いマルチユース型の高付加価値施設と低物流コスト施設が生き残る、(2)既存大型倉庫のコンバージョンが加速、(3)雇用依存都市型か、郊外型に二極化される、と佐竹氏は予測する。ロボット化や自動運転の実用化によって物流コストの低価格競争が激化し、物流と製造の境界は消失し、従来の物流施設や工場の概念を超えたマルチユースな産業施設に進化していく。

グローバルなインダストリー4.0の動きに向けた同社の取組みとして、マルチテナント、マルチユースの多層型シェアード・ファクトリー「AMC香港」を紹介した。香港の再工業化を目指す先進的生産・物流施設で構成される床面積10万m2の7階建て多層型複合施設だ。竣工予定は2021年、同社は国際コンペを経て基本設計と技術コンサルタントを請け負った。