物流不動産ニュース

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企業にとって価値のある不動産物件 - 157 

いきなりだが今回のタイトル。字義通りなら、効率よく稼げる物件=価値のある物件ということになる。すなわち安く買って安く建て、かつ高い賃料で貸せる物件だ。そこから得られる利益を物件の価値の評価基準とするならば、これは正しい。しかし土地や建物はしばしば、表面的な利益=お金でははかれない価値を持つこともあるのだ。

例えば「代官山T-SITE」。DVD・CDレンタルや書店を展開するツタヤの新形態店舗「代官山蔦屋書店」を核に、ライフスタイル提案型のショップが並ぶ人気の複合施設だ。高感度な来街者や居住者の支持を受け、2011年12月のオープン以来多くの来店者で賑わっている。約1万1000㎡の広々とした敷地に低層の商業棟が並ぶ様は街の雰囲気にはマッチしているが、このつくりでは収益性があまり良くないのではと感じる方もいるかもしれない。

同施設は旧山手通り沿いのNTT社宅跡地などの再開発事業で、ツタヤを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブとNTT都市開発の共同プロジェクトとして進められた。民間企業の再開発だから、普通なら収益性を最優先とした開発を想像する。すなわち大規模で効率よく稼げる建物だ。しかし「代官山T-SITE」はあえて緑地を多くとり、小ぶりの建物をゆったりと配置して公園のような雰囲気を演出している。しかもそこで売る主力商品は高級衣料品や高級車ではない。本なのである。

都市計画によって建物が小ぶりなのは致し方ないとしても、その核となるのは平均客単価が千数百円といわれている書店。オープン当初から、収益を重視したビジネスモデルではないのはでないのではないかといわれていた。地価が決して安くないあの立地で、あの売り場面積で、さほど客単価が見込めない商売をする。これはどういうことか、と。

単純にビジネスとして見れば、今も大きな収益は挙げていないのかもしれない。しかし結論を言えば、ツタヤの目論見は収益だけではなかった。新しいスタイルの書店をオープンさせることで、ツタヤはこれまでにはなかった一面を手に入れた。それまでレンタルビデオチェーンとして認識されていたツタヤが、あの立地にあの雰囲気を持つ複合施設を構築したことに価値があるのだ。書店を営む企業が、書籍販売を含む文化を新しいライフスタイルの形にして提案したことに意味があるのだ。少なくとも「代官山T-SITE」のオープンによって、ツタヤのイメージは上がったはずである。

不動産が収益力以上の価値を持つというのは、こういうことである。評価基準を収益ではなく、文化の創造や近隣居住者・来街者への利便性向上、あるいは街に新たな価値を付加することに置く。単なる社会貢献ではなく、企業が持つポリシーの発現の場として不動産物件を活用するのだ。実際にはその物件のぶんを補うだけの収益源が別途必要なのだが、それはまた別の話。

いずれにしても、文化は金がかかるもの。しかしそれを後押しすれば、いずれ何らかのカタチでかえってくるのも事実だ。もっともこの考えを企業経営という観点から突き詰めていくと、何でもいいからこうした事業に取り組めば企業として評価されるのだ、というあざとい考えに至りそうなので少し怖い気もするが。見返りを期待していることがバレたり、なおざりにしていたりすると逆効果なんですけれどもね。

(久保純一)2016.09.20