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渋滞回避の生贄 

渋滞に巻きこまれて喜ぶ人などいないだろう。行楽目的でももちろんだが、定時定着を旨とする物流では事態はさらに深刻だ。渋滞に巻き込まれている本人も見方を変えれば渋滞に参加しているわけだから、交通の集中によって渋滞が発生するのはしかたないとしても、少しでも早く目的地に着くための方法がないものか。一般的には、回り道を通るという選択肢が妥当だろう。

だが多くの車が回り道を通るようになると、迂回路とされた道が渋滞しはじめる。そして迂回路の渋滞が一定以上の規模に達すると、今度は本線上の渋滞がさらに激しくなる。結果として、どのルートを通っても渋滞に巻き込まれることになってしまうのだ。

交通の集中によって発生した渋滞に関してのみだが、実はこの現象を数学的に解明した公式があり、渋滞を発生させない方法もわかっているのだという。それによると、本線上が渋滞する前に適切な台数を迂回路に誘導できれば、全体の渋滞はひどくならない。一見あたりまえのことを言っているようだが、迂回させる車の数を数式であらわすとものすごく複雑なのである。

要するに一部の車には遠回りをしてもらえばいいのだが、実行するには大きなハードルがある。迂回路を通らせる車をどうやって決めればいいのだろうか。で、問題である。

「目的地まで、本線を通れば時間は20分。迂回路だと30分かかります。計算では10台に1台が迂回路を通れば渋滞は発生しません。ですので、あなたの車は迂回路を通ってくれませんか?」

こう言われて迂回路を遠回りする人がどれくらいいるだろう。では聞き方を変えればどうだろうか。

「このままでは渋滞が発生します。渋滞が発生すると、本線は40分、迂回路は50分かかります。それを防ぐために迂回路を通ってくれませんか?」

「あなたが迂回すれば大勢が渋滞に巻き込まれなくて済みます。そしてあなたはヒーローですよ」

「紳士はこういうときに迂回路を通るのです」

「迂回路を通るのがルールです!」

どうすれば迂回路を通らせることができるかなんて、沈没する客船から飛び込ませる、あの国民性ジョークを思い出してしまう。でも結局のところ、何のインセンティブもなしに迂回路を通らせるのは無理という結論に陥っているのが現状。自動運転が実現すれば、優先度の高い車とそうでない車を選別して、優先度の低い車を迂回させるといった運用も検討されているとはいう。しかしこれも、自分の優先度の低さに文句を言う人がでてきそうではある。

渋滞を予測するカーナビもあることはあるが、上述のような細かな予測や指示までできるものではなく、今のところは個々が判断する以外に手はない。ドライバー全員が道路交通の円滑化を最優先に考えられればいいのだが、なんだか「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という宮澤賢治の言葉を思い出してしまう。

そんな筆者は、機会があれば喜んで迂回するつもりである。残念ながらなかなか機会に恵まれないが。

久保純一 2017.05.20