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延 嘉隆の物流砲弾<10>“3PL”という詭弁の化けの皮が剥がれ始めた 

今こそ問われるべき“3PL”の意味

最初に断るが、本文では、学術的な意味での“3PL”の定義など、七面倒臭い議論など無視する。物流業界に満ち溢れているその手の議論が好きな方は、ググって調べるなり、各種勉強会に参加されるなり、●●学会に参加されるなりして、知識の向上、お勉強に邁進して頂きたい。

さて、勘のいい物流業界の人は気づき始めていると思うが、今まさに、「3PLとはなんぞや?」と、再考されている時期なのではないだろうか? 単に、「運送業だけやっている会社ではない」、あるいは、「倉庫業だけやっている会社ではない」程度の意味合いしか無いのではないか・・・と感じる時すらある。

受託事業者のキャッシュポイントに着目すれば、事業者の成り立ち(運送業or倉庫業or作業荷役)を踏まえたそれぞれの得意分野とは別のキャッシュポイントを作った(別の領域まで手掛けるようになった)・・・程度のものだ。そして、往々にして、拡張して手掛けるようになった領域でエクセレントな収益性を上げているケースは稀だ。

3PLとは、薄く広く“抜く”仕組みなのか?

甚だ雑な議論をすれば、港湾領域を除く物流の機能である「運ぶ」「保管する」「作業する」というキャッシュポイントにおいて、かつて別々の事業者が別個に手掛けてきた業務を一本化して受託するようになっただけの話ではないだろうか。巷で3PLと呼ばれている事業者が手掛ける案件を垣間見ると、“物流企画”、“物流管理”の名のもとに、元請&中抜きする仕組みといった程度のことではないかと感じことはよくある。

もっとも、このような状況が無意味・・・とは言えず、発注側も1社と話せば事足りるなど、プラスの面もあるのだと思う。しかし、3PL事業者が大上段に構える“物流企画”や“物流管理”なるものは、マテハンメーカーやシステムベンダー、その他のソリューションベンダーの受け売りであることが大半だ。自社施設利用を第一義に考えるなど、必ずしも、荷主にとってベストな選択肢を提示していると言えないケースも多い。無論、そうではないケースもある(のかもしれない)。

そもそも、受託3PLが企画・管理した結果、具体的にどのようなバリューが上がったのか解らないことはままある。ゆえに、3PL事業者の側に立てば、手掛ける領域(業務プロセス)を拡張して、薄く広く“抜く”仕組みを作っただけとの見方も出来なくはない。つまりは、物流業界における取引の多重構造は何ら変わっていないのだ。そのことに、バカじゃない発注側が気づき始めている・・・。

余計な失言の類を一つだけすれば、“3PL”に限らず、小難しい議論をしている経営者ほど、掲げる理論と手掛ける現場の実態との乖離がデカい。個人的には、片腹痛いので背伸びをするのはやめた方がいいと思う。

3PLが解ってないな・・・と思う瞬間

 時折、筆者は業界団体の現場見学会などのコーディネートをすることがある。その際のアンケートなどを拝見すると、「3PLの方々は、サプライチェーンなど論外。物流なるものを全くもって理解してないのではないか・・・」と思う回答の方が多い。

大半の場合、バキバキに先端のマテハンやソリューションが導入され、現場の作業スタッフがハキハキと挨拶をし、5Sなるものが相応に出来ていれば、「エクセレント!」と受けとめる傾向にある。実際、現場のオペレーションに課題があったとしても、あるいは、最先端機器を導入した結果、前後のシンクロする作業オペレーションがグダグダになったとしても、そんな事態に気づく人はいない。

驚くべきは何かしらの作業プロセスの生産性向上が説明された場合に、その前提条件(制約条件)を質問する人もいなければ、前述のシンクロする前後の業務プロセスに着目する人もいない。無論、サプライチェーン・ロジスティクス全体を見渡して、その結果、どうだったのか? と考える人など皆無だ。つまり、「個別最適化の和が全体最適化になる」という思考の人が大半なのだ。

他にも、3PL協会前会長が唱える「日替わり班長」「アコーディオン方式」「日々収支」。その一つ一つは、非常に示唆に富むものであり、重要な要素であるが、前会長がこの話を発表した際に、「全国の物流センターの収支を見せて欲しい」、あるいは、「個別のセンター収支を見せて欲しい」という他社からの要望を聞いたことが無い。ぶっちゃけ、“それ”を見ないと何とも言えなくないだろうか?

つまり、何となくロジック(なんちゃってのストーリー)というか、表面上の辻褄がさえ合っていれば、そこを検証することに関心が無い人が手掛けているのが実情なのだ。

物流である以上、モノの流れであり、特定の業務プロセスにおける改善効果だけに着目することにどれぐらいの意味があるのだろうか?と素朴に疑問に思うし、いかなる妙案や施策も、実データを見ないと何も解らない・・・と、筆者は思う。無論、筆者が“無能”なだけかもしれない。ゆえに、そう思われる方は、「延 = 使えない」との烙印を押して切り捨てて頂きたい。

景気減退フェイズに備えよ!

 マクロ経済的な議論は専門家に譲るとして、今の景況感をどうみるのか?という点において、実体経済をどの業種よりも痛感する(=株価や不動産に引っ張られる経済指標とより実際の消費に連動する景況感とのズレに気づく)物流業界の見解は同じだ。一部のSPAやECを除けば、倉庫は満床になれどモノは動かない。つまり、多くのプレイヤーが“景気の良さ”を実感していない。

政治的な議論を丸無視するが、そう遠くない将来、この国の経済はまた頭打ちとなる。その時、多くの企業(発注側の荷主企業)が“物流改革”を声高に叫びはじめる。最早、不景気の風物詩ともいえよう。

労働力不足にともなう労働賃金の上昇など、外部環境の変化も相まって、次の改革フェイズは、さすがに、「中抜き+ノーバリューの単なる元請型の3PL」は、その帳合から飛ばされることになる。その手のプレイヤーは、今のうちに発注者の弱みを握っておくとか、はたまた、子どもの就職や親族の病院の世話をするか、あるいは、ハレンチな場所にでも連れて行って写真撮っておくか・・・など、発注側が手のひらを返さない(返しづらい)トラップを仕込んでおくか、何かしらの先手を打っておいた方がいい。

この際、身を正そうと思うならば、真っ当に、自社でオペレーションを手掛けるか、気の利いた請負会社(作業会社)を育てて逃げられないようにしておくか、あるいは、商流に入り込むとか、事業ポートフォリオを分散させるなど、少し、真剣に考えておいた方がいい。

とりとめの無い文章となったが、小難しい“3PL”の議論はさておき、

「ちゃんとやろうよ♡」

筆者の言いたいのはそれだけだ。

 

・・・と、ここで、筆者自身、「そもそも、“3PL”とはなんぞや?」という疑問が芽生えた。

そこで、懇意にしている「ロジ・ソリューション株式会社」の釜屋大和シニア・コンサルタントに聞いたところ、以下の回答があったので、ご紹介したい。

“3PL”とはなんぞや?

Wikipediaによると“3PL”は「広義では、荷主企業のロジスティクスの全体もしくは一部を、3PL事業者に委託する物流形態の一つと定義されます。 狭義では、荷主企業のロジスティクスを物流改革の提案から運営までを包括的に委託し、3PL事業者自身が荷主企業の立場・視点から物流効率化(物流費削 減、供給の迅速化、売上の拡大など)を実現する物流形態と定義される。」と定義されています。

そもそも“3PL”という言葉自体は、米国のコンサルティングファームであるArmstrong & Associatesが物流事業者の新しいサービス形態概念として作成した言葉であり定義ではありません。米国らしくマーケティング戦略として概念をまず作成したのです。

ところが、日本においてはそのマーケティング志向がなく、“3PL”というほんわかとした概念だけが広がってしまいました。

つまり、“3PL”は最初から定義されるものではなく、各物流事業者がマーケティング戦略に沿って実業として成り立たたせ、それがその会社の“3PL”の定義になるといった性格のものです。「3PLを目指す = マーケティング思考を持つ」ことであり、そもそも下請けとして存在する物流事業者は思想をシフトしない限り、その延長線上に3PL事業はありません。

アウトソーシングする企業は、物流が面倒でコストセンターだからであって、それを勘違いして“3PL”などど謳っているのはおかしいと思います。

自社が提供できる価値が何なのか、それは物流領域を超えて、購買代行でもよいし、販促支援でもいいんですが、そういうところに目がいっていない企業がほとんどで、従来の物流会社と同じだと感じています。

それは未来に対しての投資が低利益率のためにできなかったり、優秀な人材を獲得できる能力が低かったり、給与体系が現場に引っ張られていたり、教育制度がなかったりと、まずは自社の体制を見直すことが必要だったのに、何も変わってこない=3PLが単なる業務受託になってしまったのです。

ロジ・ソリューション 釜屋大和氏

●延嘉隆氏プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
株式会社ロジラテジー代表取締役。
物流企業経営の視点で、財務戦略(事業承継・M&A・企業再生)・マーケティング戦略を融合し、物流企業の価値を上げる物流コンサルティングファームとして評価が高い。
物流企業を中心に、事業承継・相続、物流子会社の売却など、“ロジスティクス”、“卸”、“小売”などの財務課題で、卓越した経験を有する一方で、物流現場に作業員として入り、作業スタッフとの対話に勤しむ一面も。延氏の詳しいプロフィールはコチラ。

*本連載に関するお断り