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TBWA HAKUHODO QUANTUM アクセラレーター事業責任者 井上裕太 ー挑戦者に聞く 第4回(後編) 

【対談】イノベーションの中心には常に人がいる

 TBWA HAKUHODO QUANTUM
アクセラレーター事業責任者 井上裕太
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株式会社イーソーコドットコム代表取締役 早﨑幸太郎

 

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前編の続き)

 

イノベーションは外からやって来る?

早﨑:昨今、UBERやハコベルなど物流において革新的と呼ばれるものは大抵他の業界から発信されていますが、イノベーションというのは同じ業界内では起こしにくいのではと感じることがあります。業界内の課題は、QUANTUMのような視点からのほうが見えやすいということはありますか。

井上:イノベーションは、必ずしも業界外からでなければできないということはありません。ただし既存のルールで結果を出した人は、思考が成功体験にとらわれてしまいがちになります。イノベーションは辺境から起こるという人もいますし、当たり前を疑う力は外部の、それも新しい感性を持った人の方が強いのかも知れません。

しかし日本ではブランドや信頼性、販売力などを含めて、まだまだ既存の企業にパワーがあります。我々が取り組んでいるのは、その業界にどっぷり浸かった企業のパワーを生かしつつ外からのアイディアを掛け合わせることで、新しいモノをつくっていくことです。日本では、どちらの良さも生かしていくのが良いと考えています。

早﨑:様々な業界からプロフェッショナルが集まっているQUANTUMですが、そのコアメンバーに求める人材像は。

井上:大きく5つありまして、1つ目が「ユーザーのことを見つめる力があるか」です。当たり前のようですがこれが第一。2つ目が、「オープンイノベーションをうまくプロデュースできるか」。3つ目が「大企業のパワーを駆使しながらスピーディな事業展開ができるか」。以上の3つが、我々がもともと持っているスキルです。その土台の上にあるのが4つ目の「ソフトウェアもハードウェアもつくれる能力」。5つめがマインドで、「ルールの無いカオスを楽しめるか」。我々がやっているのは今まで誰もやったことがないものばかりなので、それを楽しめる人、ルールのないカオスを楽しいと思える人でないと、厳しいかもしれません。

 

倉庫とベンチャーの親和性

早﨑:井上さんはアメリカで雑誌記者として、多くのベンチャー企業の成長を目の当たりにしてこられました。現在シリコンバレーで活躍している企業の多くが倉庫やガレージで起業していますが、海外のベンチャー企業の状況が日本にも伝わってくるにつれてそういうカルチャーも肯定的に捉えられるようになってきているようです。QUANTUMがオフィスを置く「第3東運ビル」も倉庫を改装したビルですが、日本の倉庫をオフィスにしていこうというムーブメントはどのように映りますか。

井上:我々のオフィスもその例の1つですが、倉庫をオフィスとして使うメリットのひとつが、「既存のオフィスとは違う」ということです。我々にとっても嬉しいことですが、パートナー企業がわざわざ我々のオフィスに集まってくれるのです。ある人に理由を聞いたら、「ここはクリエイティビティのスイッチが入るから」と答えてくれました。既存のオフィスでは既成概念にとらわれやすい。しかしQUANTUMに来ると「自由に考えていいんだ」という発想になるそうです。そういう場になっているというのはひじょうに嬉しいですね。

もう1つは自由度の高さです。これだけの施設を新築のオフィスビルでやろうと思ったら莫大な費用がかかりますし、何より倉庫には少しくらい雑に使った方が格好いいという雰囲気がありますから。

3つ目はやはりガレージベンチャーの文化です。アメリカでは今でも、自宅をオフィスにしてガレージでソフトを開発しているIT系企業がたくさんあります。その「ここから新しいモノを生み出していくんだ」という空気感、「ゼロから始めていこう」というベンチャー独特の雰囲気が、ここにもあるのです。

早﨑:我々もあらためて感じているのが、現実的なメリットの大きさです。同じ立地で同じ面積なら倉庫の賃料はオフィスビルより確実に安価ですから、浮いたコストを内装に回すことができます。また最近では一般的なオフィスビルでも倉庫っぽい内装を再現できるよう、自分たちで好きな内装を創り上げることができるスケルトンスタイルのオフィスをつくりました。年配の方は驚かれますが、若い方はどなたも格好いいと言います。その反応は年代ではっきりと分かれますね。

井上:QUANTUMのオフィスもスケルトンですが、どの方にも格好いいと言っていただいています。

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物流ビジネスでは大変革が進行中

早﨑:物流業界は今、大きく変わってきています。井上さんには物流業界はどのように映りますか。

井上:アメリカなどでBtoC物流を見ていると、自動化とともにパーソナルな体験になっていると思います。例えば配達の際にネットで検索すると、どういう評価を得ている配達員が運ぶかが見えるようになっています。笑顔でさわやかに対応したり、世間話に応じたり、ちょっとした相談事を聞いたり、今までそういうことは配達員個人の機転の範囲内で行われていましたが、配達される側からしてみればそういったことの積み重ねが配達員個人の評価になっていたのです。これまでは個人の機転の範囲内でしかなかった配達員の評価を平準化して可視化することで、配達が再びパーソナルな体験になりつつあります。この傾向がすすめば、よりユーザーの快適性にこだわった企業が勝つということになります。もちろん全く毛色の違うプレイヤーが参入してくる可能性もありますが、それでもこの図式が大きく変わることはないのではないかと思います。

早﨑:国内では当日配達だったり時間指定だったり低価格化だったり、これまでのサービスが実は過剰だったのではないかという声も挙がっています。物流のレッドオーシャン化とともにどこで利益を出すかが課題となるなか、物流企業の淘汰と新規参入は今後も進んでいくと予想されています。何をやれば生き残れるか、答えがまだでていません。

井上:確かに低価格化によるメリットは大きいですが、例えばUBERが成功したのは低価格だからではありません。すぐ来てくれて、現金を持たずに支払いできて、どんな人が運転しているのかがわかって、自分がどこにいるかがわかる。海外で普通に暮らしている人にとって、これは大きな価値です。つまり価格ではなく、利便性や快適性が受け入れられた結果だといえます。しかしこうした利便性や快適性の提供は、ちゃんとしたタクシードライバーならできていたはずなのです。

物流も同様で、価格ではなく利便性や快適性をきちんと提供できる会社が残っていくのではないかと思います。ドローンにしても、既存の物流すべてがこれに置き換わるということはありません。遠隔地への配達など物理的なニーズか、もしくは何らかの付加価値がついてはじめて使用できるものです。基本的なところだけを見ても、物流はまだまだイノベーションの余地のある業界だと思います。

 

いつか“ユニコーン”に

早﨑:今後の目標や、QUANTUMにとってのゴールは。

井上:具体的な目標としては、今我々が実践している手法が文化として定着することです。そうなれば日本はすごく元気になると思います。次が、事業をどんどん創っていくこと。特にIoT時代の新事業です。スマホをさわらなくても情報が受け取れる時代がすぐそこまで来ています。そこで成長できる事業をつくりたい。そしていつか「ユニコーン」と呼ばれるモノをつくりたいと考えています。ベンチャーでありながら、高い価値・高い評価をもつ企業や事業を「ユニコーン」と呼びますが、我々がいつかそう呼ばれるときが、いま実践している新規事業開発の手法が世の中に定着した時だと考えています。そのためにも、革新的な事業を今年中に仕込んでおくつもりです。

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対談日:2015年12月21日
*この記事は2016年3月29日に掲載されました。TBWA HAKUHODO QUANTUMは、2016年4月1日付けで株式会社QUANTUMとして設立されました。