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人材の評価と報酬 evaluation―第24回 物流不動産Bizの人材開発

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改めて日本型経営や報酬制度が見直されている。新聞を賑わしているのが、同一労働同一賃金、残業制限圧縮、男女多様化の働き方改革という雇用制度の全部を再発明しようという流れだ。能力主義やヒトをコストと見る欧米型雇用形態では人手不足解消や事業継続を支えられなくなってきたからだ。

「人材は全てに勝る経営資源」と謳っておきながら、事業低迷期にはリストラ解雇が選ばれ、代わりに非正規雇用者の導入が進んだ挙句、「ノウハウ継承欠落」が現場の混乱を招いてしまった。優れた人材だけがいれば解決できるものではなく、現場や事業は経営者も含めて、互いの信頼感と補完活動によってしか成り立たない。経営トップだけのフルアウトソーシング組織ではカイシャにはならない。

忘れてきた日本型家族経営、終身雇用制度、年功序列賃金体系、企業内組合の持つ意味に再評価が必要になる。これこそが「企業はヒトなり」を名実ともに支えてきた制度だからだ。ヒトはコストではなく将来のための投資であり、従業員は長期的展望によって生涯をカイシャに託すようになる。経営者と従業員は同じベクトルを持ち、社会への役割を果たそうとしてきたのが、日本的経営の姿だった。

自由貿易によるグローバリゼーション、欧米型格差社会をもたらしたアングロサクソン経営、非正規雇用者を助長する成果主義や能力主義賃金体系もみな立ち止まっている現実を振り返ると、改めて人材の評価と報酬制度の解決対策は急務となっている。

賃金はどのようにして決まるのか?誰が決めているのか?

新卒採用者は同業他社の募集要項を見る、中途採用者は「当社の規定」の文字列に気になりながらも、面談時に質問すべきか葛藤する。経営者は業界動向、労基署指導に合わせて<賃金の超低空レベル>を模索する。

報酬賃金は業界業界の労働分配率(付加価値額に占める賃金相当)と労働市場での相場に依存しているハズであるが、初任給手取り20万円、カルロスゴーンの報酬10億円も説明ができない。

このように不可解な事態となってしまったのが、成果主義、能力主義体系の名残なのだ。

それは、成果主義導入を解説した河合の『不機嫌な職場』に代表される、組織の没コミュニケーションを産んだだけで、従業員の幸福感は一向に高まることはなかった。2016年ノーベル経済学賞を受賞したベント・ホルムストロームが、経済活動のインセンティブ理論を賃金体系まで構築して、固定給+歩合給の制度を広めたが、その割合を定める公式には至っていない。

新卒の独身者と配偶者家族持ち、子育て最中の家庭への報酬制度がすべて成果主義なら、転職の動機はブラック企業への誘い水になる。日本型賃金制度は年功序列によって、結婚を奨励し、家族制度や住宅の定着を奨励してきた。長期安定雇用は隣の住民がどこの誰だかわからないような近所関係から、企業名と主人の名がつながる安心感となった。

従業員ばかりでなく、その家族まで責任を負うことを言う経営者は減ったが、安心してカイシャに貢献するための条件には、報酬だけでなく制度が重要な事は言うまでもない。
そこで、優れた人材を育成する評価と賃金制度はあえて日本型に戻すべきだと提言したい。

年功(勤続年数)を重視した賃金制度が復活すれば、雇用の長期安定と事業の継続に欠かせない改革と革新への取り組みが労使ともに高まる。経営者も従業員も思考が長期的な視野に広がり、年代による没コミュニケーションは解決できるだろう。活動成果における世代間の譲歩が謙譲となり、組織に信頼感と責任感が醸成される。

明治維新以降の日本の産業振興がつい最近までは成功してきたことを振り返れば、この20年間を一時休みとみなして立ち戻ることが方法ではないか。
年功序列賃金体系の制度は100年以上も長く続き、制度設計もホコリを取り除けば復活できる状態にある。温故知新は人事報酬制度にあると言えるのではないか。

イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント 花房 陵